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農業経営者ルポ

種播く農民の誇りが目指す「堂々たる農村」

山形県長井市に菅野芳秀さんを訪ねたのは、まだ2月も上旬だというのに、雪融の水音が聞こえてくるような陽光が目に眩しい冬晴れの日だった。
 山形県長井市に菅野芳秀さんを訪ねたのは、まだ2月も上旬だというのに、雪融の水音が聞こえてくるような陽光が目に眩しい冬晴れの日だった。雪の山並みに囲まれていても、むしろ暖かさを感じさせるような優しい雪景色がそこにあった。

 「人は風土を吸って育ち、生かされている。肉体も精神も。風土や風景が血液になり肉になり骨になる。感覚器官としての目や鼻や耳や皮膚や舌も。そして、農民は『論理』や『理屈』ではなく、『生理』としてそれを知っている」

 そう話す菅野さんの農業は、800羽の自然養鶏による鶏卵と肉の販売そして米2ha。卵と鶏肉は「にしねの地玉子」という名前を付けて地域の人々に宅配する。

「それに教員をしているヨメさんがいてくれることですよ」とすらりと言った。

 菅野さんのことはその農業経営のことだけでは語りきれない。1m90cmの大柄な体に優しい眼差しと農民の骨太さが同居する人である。50歳。まさに団塊の世代だ。菅野さんは、かつてその世代が社会にそして自らに問うたことを誠実に考え続け、今、その答えを出しているのかもしれない。

 “風土の申し子”としての農民であり続けることを通して、菅野さんは人口三万三千人、約四千九百世帯の長井市の市民事業「台所と農業をつなぐながい計画」(愛称=レインボープラン)の基本理念を提示し、運動をリードしている人なのである。


レインボープラン


 レイボープランとは、山形県長井市の生ゴミ堆肥化プラントの設置(97年2月から稼動中)と、そこから出る堆肥を使って作る農産物の地域内消費を進めようという事業である。“まち”の台所と“むら”の畑とを一つの輪につなぐ事業なのだ。その前提には、住民による徹底した生ゴミの分別収集が行われている。しかも特筆されるべきことは、その事業が菅野さんをはじめとする長井市民の「土を基礎とする循環型地域社会」を目指すボランティア運動から生まれてきたということだ。

 農民や市民の代表、行政や農協の職員、商工会議所、企業経営者、医師、女性団体、消費者団体など、様々な業種や立場の約60人の人々がレインボープラン推進協議会と名付けられた集まりにボランティアで参加し、侃々諤々の議論を重ねてプランを練り、数々の実験事業を重ねた末に実現させたものなのだ。行政に対する権利の要求としてではなしに。出身や利害の違いがあることよりも異なる経験や能力のある人々が集まれることに価値があった。

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