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農業経営者ルポ

種播く農民の誇りが目指す「堂々たる農村」

山の神様と自然養鶏


 管野さんが構想したレインボープランを理解するためには、菅野さんが取り組んでいる「自然養鶏」の話しをしなければならない。その技術というより自然観であり哲学をである。

 自然養鶏を始めた切っ掛けは「現代農業」の記事だった。それを読み、技術の開発者である中島正氏の著書「自然卵養鶏法」を買って読んだ。その技術と哲学に感銘した。

 「自然養鶏」とは、平飼いの鶏舎でゆったりとした環境の中で鶏を飼うこと。天気が良ければ屋外で自由に鶏を遊ばせる。そして、配合飼料に頼るのではなく、どこでも手に入る屑米や野草の他、暮らしの周りにある何でもが餌になる。しかし、ただの残飯養鶏ではない。ノコ屑と米ヌカを半々に混ぜた床に微生物を加えて発酵させたものを種として作り、さらにそれに様々な餌を混ぜて発酵させて餌にするのである。

 しかし、菅野さんの自然養鶏は中島氏が著書に書いてあった方法とは少し違っている。中島氏の本では微生物は特定の物を使うと指導されていた。しかし、菅野氏は、里山の腐葉土、沢の淀みに堆積している土、あるいは山道の脇堆積している落ち葉など、どこにでもある地元の風土の中で適応してきた微生物の棲み家となった腐植土をそのまま発酵菌の素材として使うのだ。

 本に書いてある通りにやっているのに、もどうしても上手く行かないことがある。

 最初は若鶏の玉子の殻は小さくとも殻が硬いのに、二年目のニワトリになると玉子は大きいが殻が薄くなることが問題だった。原因はニワトリが飲む水の質にあることが解った。水は土地によってカルシウムの濃度が違う。試しに飲み水にカルシウムを混ぜてやると玉子の殻の問題は解決してしまった。地域による「水の違い」を無視していたのだ。

 次に、育すう段階を終えたヒナを地面から隔離されたバタリー式の鶏舎に入れると、やがてオーチスト菌という菌に感染して下痢症状を起こすという障害が出た。ひどい時には一割位を死なせてしまうこともあった。死ななくともそれが後の産卵率を低下させた。ところが在る時、忙しさのためにバタリー鶏舎に移す手間が無く、空いている鶏舎にヒナをそのまま入れたところ下痢が起きない。

 鶏舎には古いニワトリの糞が堆積しているわけだから、むしろオーチスト菌の密度も高いはずだ。にもかかわらずヒナたちは元気にしている。

 土と接しているヒナたちは、オーチストに汚染された土の上で餌をついばんでいても、同時に土から「単種の微生物だけが増殖するということが不可能なしくみ全体、土の中の生物存在全体を体内に取り込」むことで下痢を起こさずに済んだわけだ。一方、土から隔離したバタリー鶏舎に入れたヒナは、オーチスト菌に対して拮抗関係のあるその他の微生物を十分に取りこむことができなかったために障害が出たのだ。

 土とニワトリの腸とは、ひとつにつながった一個の世界なのだということに、その時気が付いたのだ。

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