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農業経営者ルポ

島を越えた"結まーる"

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第40回 1999年05月01日

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旧暦の正月十六日、沖縄県石垣市(石垣島)では多くの商店や会社が「本日休業」の張り紙を出して店を閉めてしまう。市役所や大きな会社でも、従業員が休みを取るため午後は開店休業の状態となる。沖縄県の離島に伝わる「十六日祭」というお墓参りの日なのである。今年は三月三日がその日だった。
 旧暦の正月十六日、沖縄県石垣市(石垣島)では多くの商店や会社が「本日休業」の張り紙を出して店を閉めてしまう。市役所や大きな会社でも、従業員が休みを取るため午後は開店休業の状態となる。沖縄県の離島に伝わる「十六日祭」というお墓参りの日なのである。今年は三月三日がその日だった。

 正月の料理とお酒を墓前に供え家族全員で先祖を祭るのである。離島から那覇の琉球王朝に徴用されて親の死に目に立ち会えなかった若者が、旧暦の正月十六日に墓前で亡き親と一緒に先祖を祭る正月の宴をしたというのがそのいわれだそうだ。高齢者を座の中心にして家族全員が墓前に集い、また、親戚の墓を互いに訪ね合うのだ。家族や地縁の絆を確認するかのように。

 独自の民族文化や歴史を持ち、伝統的な習俗や生活観、家族や共同体の結びつきが現在の暮らしの中に根強く残っている沖縄。琉球王朝の日本国への併合に始まり、沖縄戦、敗戦後の米国統治と日本復帰、米軍基地の存在とそれへの経済的依存など、同じ日本人であっても、沖縄の人々は他府県とはまったく異なる歴史の体験を持つ人々なのである。

 誰でも高校野球が始まると「県」や「旧藩」単位に区切られた県民感情によって、精神が高揚している自分に気付くはずだ。しかし、沖縄の人々の場合には、他府県人とは比較にならぬほどに強い求心力を持つ沖縄県民共通の心性が存在している。そして、そこにはウチナンチュー(沖縄人)に対するヤマトンチュー(大和人・日本人)という対立の図式と不信感を背景にした割り切り難い感情も含まれている。

 そんな異質の歴史を背負う二人の人物の出会いが、沖縄県石垣市(石垣島)に、今、新しい時代の波を起している。

 崎枝純夫さん(43歳)宅の今年の十六日祭には、一人だけ座を囲む人たちとは顔付きの違う人物が同席していた。大阪出身の川東知宏さん(39歳)だ。崎枝純夫さんを代表者として設立された(有)エコ・ファーム・石垣島で崎枝さんのパートナーとして働く人である。


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