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農業経営者ルポ

豊かさのおすそわけ

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第41回 1999年06月01日

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目に見えぬ資産を伝える



 やがて、高松さんの農業経営は、家の核を作り子供を育てるために一生懸命だった時代から、息子さんが医師になり子供たちにお金が掛からなくなる時代になった。親の誇りは受け継いでも経営としての農業を継ぐ事は無かったのだ。それはそれで良いのだろう。

 高松さんは今、農業をしてきた経験を、あるいは農家であればこそ知り得たことを、農業を受け継ぐ人、関連企業で働く人、そして町の人たちに伝えることを楽しんでいるかのようだ。いや、それは、

「戻し続けよ」

 という高松さんの経営理念を農家人生の仕上げとして果たしていることなのかもしれない。

 高松さんは日本一といわれる京都の竹山を見たことがある。

「優れたもの、それも最高のものに出会うことが大事なんです。人は最高のものを見ることで目標が生まれ、おごりも無く、素直に努力することができるようになる。他との比較でしか自らの位置を測れない自分に思い悩むようなこともなくなる」

 多くの人々は、世の中の平均より上か下かで満足し、悩み、そして妬むことが多いものである。しかし、目指すべき最高のものを見つめ続け、それに近づこうと努力する者であればこそ、人には精神の自由が与えられ、どんな地位にいても誇りを失うことなく生きることが出来るのだと高松さんは言う。先を歩む者がそれを示すべきなのだ。

 豊かさとは何なのだろうか。まず何より飢えの心配が無いことだろう。もう日本人はそんな時代に生きてはいない。すでに我々にとって豊かさとは、所有物の多さでも、消費能力の大きさでも、より多くを与えられることへの満足だけでもないはずだ。それは、むしろ貧しさゆえの願望だったのではないか。もちろん、経営者として利益を出すことに努力することは当たり前だ。

 豊かさとは、むしろ自らの中にある豊かさに気付くことであり、自分に与えられた能力やチャンスのありがたさを知ることであり、自らが持つ価値基準に自信や誇りをを持つことなのではないか。

 さらにいえば、家族、隣人、取引先、顧客、そして後に続く者たち、働きかけるべき対象を持てるということなのではないか。自分と誰かを比較することではなく、誰を羨むことでもなく。

 高松さんは誰もやらなくなった竹山に昔以上に手を掛けながら、それを町の人に、関連企業の人、子供たち、そして若い後継者たちに見せようとしている。それを高松さんは、

「農家である自分からの豊かさのおすそわけ」だという。

 高松さんは、竹山を使って、次の時代・変化のために、若い人々に見えない資産を伝え、受け継がせることを願っている。(昆 吉則)

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