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ほんらい農業というのは絵になる仕事なんだ
3年ぶりに笹崎社長にお会いするために、関越道を下りてサイボクへ向った。『サイボク』の案内表示に従って進むと、緑豊かな田園地帯の中に駐車場を示す『P』の文字が見えてくる。第1駐車場だけで300台、第2、第3を合せて600台の収容が可能な大駐車場を完備している。その向こうには、広大な敷地内にある直営ミートショップや直営レストランが見える。ショップでは自家製造の豚肉などの商品を、レストランでは自家生産の肉を食材にしたメニューを提供している。
カフェテリアやリンゴ園、アスレチックなど、他にもさまざまな施設が並ぶ。オープンエアのベンチに座って名物の“串トン”をほおばったり、庭園に敷き詰められた全国の銘石や銘木を眺めたり、親子連れや老夫婦、若いカップルなどが思い思いにくつろいでいる。
つい“牧場”であることを忘れてしまうが、奥まった場所にある日高牧場には約1000頭の原種豚がハイテク設備で飼育管理されている。それを笹崎社長は「世界最高の技術と最新鋭設備で管理するボタン農業」と呼ぶ。ちなみに牧場は日高の他に、約3万頭の肉豚を飼育する日本最大規模の東北牧場(宮城県)と埼玉県内の鳩山牧場がある。いずれもコンピュータで管理されるハイテク豚舎が備わり、極限まで人手を省いているのが特徴だ。
しかし笹崎社長の農業人としての視点は、生産性やコスト競争力にあるわけではない。「技術革新や合理化に取り組むのは当たり前だ。それは経営者として永遠の課題だが、アメリカには日本の183倍の農地があるんだよ。自由化の波を乗り越えて生き残るには、夢のある農業、絵になる農業を創造しなくてはいけない。豊かな楽農文化、美味しい食文化、楽しい生活文化。この3つを創造することが我社の社是です」
たしかに消費者の立場から見れば、生産者としての技術的ノウハウや設備力など関係ない。ここに居ると楽しい(もちろん美味しい物を食べられることも含めて)。それが重要なのだ。昨年1年間の来客数は380万人。農畜産物の自由化や長期不況の波をかぶることもなく、年間で数10億を売り上げる。デパート等にも7つの支店を出しているが、大手食品メーカーや輸入品の低価格攻勢にもかかわらず供給が追いつかない人気ぶり。値引き一切なしの条件でも、小売業者は取引きを歓迎するという。
消費の二極化が指摘される昨今、サイボクは明らかに「本物」を志向する側にいる。それを笹崎社長は「うちは必需品ではなく必欲品を売っているのですよ」と説明する。ちょうど夕食のおかずを買いに来ている主婦がたくさんいた。ふつう私たちは、その買物の品を「必需品」の範疇に入れる。しかし川上の技術力は必欲品に変わる。
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吉田典生
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