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入植は出身地域単位になされたにしても、やがて中・四国や北陸や東北など日本全国の出自を異にする者たちが出会う。厳寒の開拓地では助け合わねば自らの生存も危うかった。誰にも守るべき現在などはない。退路を断った者たちに与えられているのは原野という未来の広がりだけだった。ヨシの屋根を立掛けただけの拝み小屋で風雪をしのぎながら、自分の家族だけでなく後から来る者のための食糧を保存し、共に未来を夢見ようとした。生き延びるためのギリギリの極限状況に立ち、互いの異質性を自覚し認め合えばこそ「他者に対する寛容性」を育てていったのではないだろうか。
やがて、困難な時代を経て人々は安住の場を得ていく。開拓の記憶を残した末裔たちも、失うべき物を所有した瞬間から失うことを恐れるようになる。内に向かう共同性はともかくも、かつての開拓者が生き抜くために持たざるを得なかった他者に対する寛容の力を失っていく。異質な者との共同の中で未来を創り上げていく力や優しさや想像力も見失っていく。
ただ、産み付けられた場所でその歴史に安住し、自らに与えられているチャンスや役割や責務の大きさに気付かぬまま、被害者意識とその怨念の炎を燃やし続け、現在の権利(利権)を守ることに汲々とする。我々はそんな存在になってはいないか。
農業界に限らず、歴史は確実にその次の新しいステージに入っているのだ。もう過去の結果に過ぎない現在にしがみ付いていられる時代ではない。
そして、現代の開拓者たちは、未来という想像力の原野に開墾の鍬を下し始めているのである。まだ見ぬ新しい歴史に向かって、あの異質性への寛容と共同性を取り戻しながら、食に係わる全ての業界人が食べる者のために理念を共有しその責務を果たすべき時代なのである。
やがて、困難な時代を経て人々は安住の場を得ていく。開拓の記憶を残した末裔たちも、失うべき物を所有した瞬間から失うことを恐れるようになる。内に向かう共同性はともかくも、かつての開拓者が生き抜くために持たざるを得なかった他者に対する寛容の力を失っていく。異質な者との共同の中で未来を創り上げていく力や優しさや想像力も見失っていく。
ただ、産み付けられた場所でその歴史に安住し、自らに与えられているチャンスや役割や責務の大きさに気付かぬまま、被害者意識とその怨念の炎を燃やし続け、現在の権利(利権)を守ることに汲々とする。我々はそんな存在になってはいないか。
農業界に限らず、歴史は確実にその次の新しいステージに入っているのだ。もう過去の結果に過ぎない現在にしがみ付いていられる時代ではない。
そして、現代の開拓者たちは、未来という想像力の原野に開墾の鍬を下し始めているのである。まだ見ぬ新しい歴史に向かって、あの異質性への寛容と共同性を取り戻しながら、食に係わる全ての業界人が食べる者のために理念を共有しその責務を果たすべき時代なのである。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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