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特集

何が変わり、何が変わらないのか、そして何を変えるのか 農業経営者たちのあの時そして今

【2 農業法人化の背景と目的】

 次に法人化の背景について、平成4年以降法人化した113法人についてみると、「夢、意欲・やる気の向上」とするものが46%で最も多く、次いで「行政・農協・普及等のすすめ」とするものが28%、「税理士・会計士のすすめ」が10%、「仲間との話し合い」が7%であった(全国農業改良普及協会・平成9年調査)。

 また、同113法人について法人化の目的をみると、最も多いのは「経営の成長・発展」で47%であり、次いで多いのは「生産・経営規模の拡大」の28%である。この他に、「後継者の就農」27%、「新時代への対応」23%、「補助事業・融資の利用」23%、「優れた経営感覚の獲得」20%、「取引の信用力の獲得」20%、「税金対策」17%等がある(全国農業改良普及協会・平成9年調査)。

 法人化の目的と背景からいえることは、法人化をした農業者は、農業に対して夢を持ち、意欲とやる気のあるものであり、経営の成長・発展を図ろうとしている者である。


【3 企業家精神を持つ法人経営者】

 夢を持ち、意欲的に経営成長を目指して法人化した経営者の性格を示すと第2表となる。これによれば、回答経営者の3分の2以上が、農業哲学、夢、高い目標、野心を持ち、何事に対しても強い好奇心を示し、リスクを負っても挑戦する、という性格が強いということができる。換言すれば、企業家精神の豊かな経営者と見なすことができる。

 本誌に掲載したシンポジウムの4人の農業者は、こうした企業家精神をもった経営者である。こうした経営者が現在、急速に増えつつある。


【4 法人経営者には管理者精神も必要】

 農業経営を法人化した場合、その8割は新たな資本投資を行う。その金額は平均5千万円程度である。もちろん、その投資は、夢・高い目標を実現するための投資であり、挑戦的に行われることが多い。それゆえ、多くの場合、経営を悪化させることが一般的であり、財務諸表をみると赤字経営が多い。

 また、資本の回転率が低くなり、経営者は売上拡大のために生産規模を拡大したり、新たな事業を導入し、多角化を積極的に進めるようになる。こうして販売金額は拡大し、資本の回転率は改善されるものの、収益性の改善がなされるとは限らない。こうした状態で経営環境が悪化すると、例えば価格が大幅に低下すると、最悪の場合には倒産も起こりうる。

 法人化した場合、企業家精神の下で売上は拡大するが、収益性の面で問題が残る。これを解決するためには、財務諸表を利用して、合理的な財務管理を行い、経営の効率化を図って行かねばならない。そのためには、経営者は、経営管理・財務管理の技術を身につける必要がある。そして、管理者精神を養わねばならない。


【著者プロフィール】昭和18年島根県松江市生まれ。昭和44年東京農工大学大学院を修了し、昭和47年より岩手県農業試験場に勤務。昭和61年同農業経営研究室長となる。平成5年に岩手大学農学部教授に就任し、現在に至る。担当科目は農業経営学、農業経営計画論、農業政策論。主な著書に「農業経営発展と土地利用」(日本経済評論社、1982)、「だんだん良くなる野菜農家の稼ぎ方」(農文協、1985)、「成長農業の経営管理」(日本経済評論社、1994)、「農業法人の経営管理とその支援」(全国農業改良普及協会、1999)等がある。

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