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百姓(ひゃくせい)の国
著者は民俗学者で国立民族学博物館の共同研究員。燃料が薪からガスにかわり、井戸が水道にかわり、テレビ・洗濯機・自家用車が各家庭に普及し、農山漁村の暮らしが一変した高度成長期の昭和40年代、著者は全国の「百姓」を訪ねる旅を始めた。ここでいう「百姓」とは「一般の人民。公民」(広辞苑)のこと。農家農民のことだけでなく、さまざまな職業の人々の総称である。一方で、この言葉には一人の「百姓」が複数の職(収入源)を持つという側面もある。本書では相馬のやきもの行商人、瀬戸内の海産物行商人、岩手県早池峰の神楽師、鳴門の荒物師、但馬の杜氏などを訪ねる。彼等は農業の合間に職人仕事をし、行商し、また、出稼ぎに出る。じつは、著者が「合間の稼ぎ」と呼ぶこれらを半農半工、半農半商の生活形態こそが、農村の暮らしを維持してきたのではないか。日本の農村の大部分は「農業も行なうムラ」であり、農家とは「農業も行なうイエ」であったのだ。こうした多角経営は農家の自助努力であり、農政や農協の事業計画はこの自助努力の意欲を生かしたものでなければならなかったはずである。著者は、「本来、村里の暮らしは、お上に丸抱えで成り立つものではない」と断じ、いまこそ「百姓再生」のチャンスであるとする。知見に富んだ「聞き書き」の書。
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