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土と日本古代文化
長年、大学で土壌学・肥料学を研究教育してきた若者の脳裏をとらえてきたことは、「土」を土壌学という自然科学の方向から研究するだけでなく、むしろ歴史や考古学など人文科学の側面からも研究しなければならない、ということだった。
なぜなら、気候や地形、植生、ひとを含めた動物の生態など自然・社会的な環境の影響を、土は総括的に受けるからだ、という。にもかかわらず、土は土壌学や肥料学、あるいは生物学からしか問題にされないのである。
日本で栽培される作物の種類の多さは、先進国でもトップクラスである。その大半は、外から伝来してきた。つまり、気候の多様性だけではなく、むしろ、そこに根づかせ、同化させるだけの多様な土質が日本列島に存在してきたを示している。その土に支えられて、日本の文化が形づくられてきた。
著者は、作物伝来・影響のルートに沿って、日本の土質とそれに支えられる文化を、北方のポドソル地帯と類似・共通性をもつポドソル土文化から南方のラトソル(ラテライト)土文化までに分けて、日本の古代文化、つまり現代の基層を探っている。
本書は、土壌学の本であると同時に、日本文化の成り立ちと発展を知る歴史・考古学の本ともなっている。著者が控え目につけている「文化土壌学試論」と呼ぶにふさわしい壮大な視野をもった図書といえる。
やさしい専門書となっていることが、素人にはうれしい。なにより、農業文化の考察に入る前に、「土とは何か?」「水田の土と畑の土」という具合に、分かりやすく土壌学を説いているのもありがたい。
積年の思いをぶつけた著者八三歳のときの労作である。本書にもられた考古学的な知見の裏づけは、定年退官後のいそしみによるというから、読む前のエリをたださずにはおかない。
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