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農業経営者ルポ「この人この経営」

ハマグリ養殖と小葱栽培の農漁二刀流

ネギのパーキングはお年寄りの内職


 もう一つ、小ネギ栽培を見よう。通年出荷できるからと自ら生産し始めたのが1987年。初め15a程度だった栽培面積はいま3.5ha(ほとんど借地)。「有限会社ねじめ農園」となり、従業員6人を抱え、年商1億円を上げる事業に育った。ハウスでの完全有機栽培(ごくたまに殺菌剤を使う低農薬。除草剤は不使用)の小ネギは、日もちがよくおいしいと好評で、大半を年間契約で産直している。年4作のノウハウを確立しており、5年後には10haまで栽培面積を広げ、いまの3倍の売上げを目指す計画だ。

 13年前、ネギを始めたとき肥後さんはズブの素人。隣りの佐多町で畜産をやる友人から牛糞・豚糞をもらって生のまま肥料にし、種をまいてもまいても発芽しないヘマもやった。そこから3.5haの栽培規模までたどり着いた原動力は何だったのだろう?

 「失敗に学びながら、どうやったら本当の利益を生み出せるか考え続けたこと」と肥後さん。ネギ栽培の前の野菜流通業時代のこと、自分の“取り次ぎ”が他より単価がちょっと安いと、翌日はもう自分との取引を止めてしまう生産者を見て、目先の損得でない信頼の大切さを痛感したが、その体験はいまの年間契約方式に生きている。

 地域の農業が永続的に存立し得る途を追い続けてきたのである。

 肥後さんの、地域の人たちを大事にする気持ちは人一倍強く、ネギの出荷の最後の作業である袋や箱詰めは、町内40人ほどの主婦や高齢者の内職の仕事として発注している。50g1袋を詰めると10円の手間賃といった具合で、最高令の84歳のお年寄りが月4万円も稼いでいるという。

 稚貝自給のハマグリ事業と、飼料化がターゲットの珪藻事業が実現し、ネギと合わせて農漁業3本柱が完成するときには、地域の人たちの労働の場はもっと広がっているだろう。

(宮崎孝隆)


農業組合法人ねじめ農園
代表理事
肥後隆志(48歳)
〒893-2501
鹿児島県肝属郡根占町川北3912
TEl.09942(4)3698

【プロフィール】
鹿児島県根占町生まれ。鹿児島経済大学卒業。会社勤めのあと、父親の急逝により退社、地元に帰り、24歳で明治の初めから続いている家業の「肥後商会」(かつては木炭、木材などを商った)を継ぐ。ガソリンスタンドの経営に加え、ビジネスホテルを創業するなど意欲的に事業展開を図る。愛郷心強く、一次産業による町おこしを志し、35歳で未経験の農業と取り組む。その中で出会った植物性プランクトンのもつポテンシャリティをどこまで引き出せるか、自らを試す。

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