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特集

改めて『尊農開国』

農産物の自由化問題は「開放論」と「保護論」に色分けされ語られてきた。しかし、その色分けは本当に意味があったのだろうか。
 農産物の自由化問題は「開放論」と「保護論」に色分けされ語られてきた。しかし、その色分けは本当に意味があったのだろうか。日本の農業は「外圧」に負けてきたのではなく、「自滅」しているのだと本誌は主張してきた。農業は国の根幹であるということは、誰しも認めることである。どんな産業も「国際化」の時代にあって、世界の中で自立することができなければ「産業」として成立し得ない。それは農業も同じである。ならば農業を「守る」ということは、「開国」という過程を経て、強い農業を成立させる他道がない。

 一九九〇年、時あたかもガット・ウルグイアイラウンド交渉が進行し開放・保護の二元論的論議が闘わされている中、『尊農開国』という1冊の本が出版された。著者・唯是康彦氏は「日本農業の国際化」「コメ流通の自由化」「新しい水田農業」を主張し、「開国」こそが「尊農」につながることを述べた。

 それから十年、日本農業の「開国」は音を立てるように進んでいる。

 改めて「尊農開国」。

 今回の特集は、それをテーマに21世紀の農業経営を見つめる。


改めて『尊農開国』

千葉経済大学客員教授 唯是康彦


【1 「市場原理」と「安全保障」】

 昨年12月にシアトルで開かれたWTO閣僚会議は参加国の意見が咬み合わず、今年から始まる新ラウンド(多角的貿易)交渉への展望を持たぬまま閉会となったが、その原因の一端は、アメリカを含めた参加国が貿易自由化における「市場原理」と「安全保障」に関して概念的に混乱していたことにある。

 元来、「市場原理」は、人間が長い時間かけて到達した「資源の最適配分」を実現するための法則であり、有限な地球に人間が持続的に生存するための原則である。それを具体化させる「自由化」はその最も優れた手段として、経済学が現在までに成し遂げた唯一の有意義な成果であるとさえいえる。

 しかし、これまた経済学が指摘するように、「市場原理」は経済的側面だけからみても「市場の失敗」を内包している。たとえば、飢饉には食料価格が暴騰するから市場原理だけでは餓死者を救えない。つまり、人間の総合的かつ具体的生活が市場原理に全面的に依存するわけにはいかないのである。「市場原理」を維持しながら、その欠陥をカバーする「セーフティーネット」が必要である。それが「安全保障」の役割である。

 したがって、「自由化」と「安全保障」を分離して考えることはできない。サーカスの空中ブランコでは下にセーフティーネットが張られるが、空中ブランコをやらないのなら、初めからセーフティーネットは要らない。逆に、セーフティーネットが張り巡らされていなければ、空中ブランコは危険この上なく、いかなる軽業師も安心して演技できない。

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