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植物の力 その神話と科学

歴史篇 1

人間と植物の関係は不思議だ。植物は絶えず黙して何も語ってくれないが、人間は植物と接する過程で色々なことを勝手に語り始めるようになった。特に、穀物を栽培する術を知るようになってからは、人間は変わった。
歴史篇 1


 人間と植物の関係は不思議だ。植物は絶えず黙して何も語ってくれないが、人間は植物と接する過程で色々なことを勝手に語り始めるようになった。特に、穀物を栽培する術を知るようになってからは、人間は変わった。植物のライフ・サイクルに鼓舞され、人間の生活にリズムが生まれたのだ。

 暦の誕生も、もともとは、農耕のリズムを体系化したことがはじまりだ。人間の原初的な世界観も同じだ。狩猟を生活の糧にしていたときは、生の起点、死の終点が直線的だった。動物(人間)と動物の関係は、肉感的で、生と死の対立構造の中にお互いが依存していたからだろう。動物を扱う術はまだ成立していなかった。植物を育てるようになってから、生と死に対する感じ方も劇的に変化した。秋の収穫期を生の絶頂ととらえ、植物が枯れてしまうことに死をみる。春の発芽は、生の起点ではなく、再生のシンボルとみた。

 世界各地の古代神話にでてくる神々の物語もこのコンテクストで読むと興味深い。

 古代エジプトの神話から紹介しよう。最も重要な男神オシリスは、地神ゲブと空神ヌトの子で、妹イシスと結婚した。人間の良き王として神々に変わりエジプトを治め、エジプト人に大麦の作り方(=農業)を教えた。しかし、これを嫉んだ弟セトに殺されてしまう。セトはオシリスの死体をバラバラにしてエジプト中に撒き散らした。妹イシスはこの死体をひとつ残らず拾い集めて麻布に包み込み、オシリスに息を吹き込んで復活させた。復活したオシリスはその後、豊饒・彼岸・復活の王となる。このストーリーが古代エジプトの世界観の原型になっている。

 ピラミッドの壁に刻まれているテキストは、死者をオシリスのように永遠の彼岸の世界に無事に導くガイダンスである。後世になると、彼岸の信仰が庶民にまで広がっていった。生前よく大地を耕したもの(=よい行いをしたもの)だけが、死後オシリスの裁判により、永遠の生命を獲得すると信じられるようになっていく。

 オシリスの神話は、様々な議論、解釈が学者の間でなされてきたが、農業を現に営むものにとっては単純明快だ。オシリス、つまり農業の術を知ってしまった者は、天(=お天道様、オシリスの母、空神ヌト)と地(=土、オシリスの父、地神ゲブ)を知っているからだ。

 死と再生の話に戻ろう。大麦の作り方を知ったオシリスは、植物の循環サイクルを読み取った。豊饒=作物の収穫、彼岸=作物の腐敗、復活=植物の発芽。オシリスの人生は、農業を知ったが故に、神聖視され、植物の生の流れと同一視されてしまった。オシリスは、農業を知ったことを象徴するように、大麦の穂を持った姿で描かれている。

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