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【植物の力 その神話と科学】
栽培植物の抵抗力
- 農業ジャーナリスト 浅川芳裕
- 第2回 2000年06月01日
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技術篇2
「植物の力」の続編を書こうと思い立ち、思案の末、ちょっと栽培植物の力をひも解くための基礎を勉強してみることにした。
締め切りも迫っているので、ぐずぐずしてもいられない。そこで、理系の友人Yと意外な発想をする友人Tに頼み込んでとりあえず集めていた資料を読んでもらって、3人で分かったことを洗い出してみた。
【●農家は栽培植物のお医者さん?】
友人Y 農業関係の本や雑誌を生まれてはじめてめくってみて、あ然としたよ。病気や菌の名前などが蔓延していて、読んでいると、自分まで病気になってしまったような気がする。おまけに、その病気に効く農薬や資材の名前も氾濫しているかと思うと、効くはずの薬に耐性菌が出たというような話も載っている。
友人T 農家とは土を耕す人だとイメージしてたけど、本を読んでいると、ひょっとして農家とは栽培植物のお医者じゃないかとも連想できるわね。栽培植物の様々の症状から原因を把握し、最適の処方箋を施す、って感じで。
筆者 今すぐできる対策は何なのか?肥料が必要なのか。農薬が必要なのか。いやいや、有機資材だけで長期的には解決するのか。去年は、何々病でひどい目に遭ったから今年は箱処理をまずやっておこうとか。
友人Y 実際、個々の作業で何をするのかよく知らないけど、自分の体も満足に管理できないのに、そこまで栽培植物のためにできるかどうか?僕だったらちょっとムリそうだな。
友人T 人の病気の場合、薬が効いて直ったとか回復したとか言うけど、栽培植物の場合、ライフサイクルが短かすぎて、出荷する時期に病気だったら、回復するまで待っていられない。だから、予めありとあらゆる薬や療法を総動員しないといけないのかしら。でも、目覚しい効き目があったとか、どんな病気にも効く農薬を発見したとか書いてないわね。
筆者 いずれにしても、対処療法的に症状を追いかけ、次の一手を読んでいくしか方法がないのかな。人だと、もっと運動して体力をつけなさいとか、規則正しく睡眠や食事をとりなさいとか、色々医者に言われる。そういう話をされると、病気というのは自分の日々のだらしない生活が引き起こしているのだと単純にはわかる。
友人Y 自己管理によって、病気に対する抵抗性を高めましょうということだよね。栽培植物となると、自分では動けないので、気温の変化、雨の量、日射量なんかに対して何のアクションもとれない。植物に自己管理が不充分だ、だらしないと訴えたところで、何の解決にもならない。
筆者 でも、同時に、栽培植物はそんな無防備で抵抗力のない生き物なのかと疑問もふつふつと湧いてくるよ。植物よ、おまえはそんなに弱かったのか、って。外的ストレスに耐えながら、密かに抵抗しているんじゃないかな。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
植物の力 その神話と科学
植物を栽培することから、人は自然の一部として自らの循環を学んだ。神話の創造は、その学習の結実だった。やがて、植物のメカニズムを探ることから、科学が芽生えてきた。科学力によって、食物の確保は安定して、人の数は増えつづけた。未曾有の人口増加は進み、人は今、種として地球上で絶頂期をむかえている。同時に、地球規模の食物危機に直面し、さらなる植物生産性の向上を追求せねばならなくなった。対処療法的な生産技術の開発だけが、本当の解決法になるのだろうか。新しい解を求めて、人は再び植物のメカニズム、抵抗する力そして進化する力に注目しはじめた。植物本来の力を知るためには、人も本来の神話する力、科学する力を取り戻す必要があるようだ。
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