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【植物の力 その神話と科学】
世界標準の「抵抗性」という植物保護
- 農業ジャーナリスト 浅川芳裕
- 第3回 2000年07月01日
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植物の抵抗性の可能性―新しい植物保護技術として
前回までに、栽培作物が抵抗性を発揮するメカニズムについて少しずつであるが、紹介してきた。この抵抗性を人為的に高めてやる究極の目的とは、植物が植物自身の力によってすべての病害に打ち勝つことにある。日々直面する作物の病害は上記ほど多くはないといっても、病害「抹殺」タイプの従来の薬剤だけでは、耐性という名の菌・虫・草とのエンドレス・ゲームが続いてしまう。
要は、病気を根絶させようと頑張るより、病気にかかりにくい植物体質を作る方が合理的ではないか、という新しい農業のあり方が薬剤の面でも現れつつあるのだ。
また、病害防除のための抵抗性薬剤だけでなく、他にも害虫や線虫あるいは物理的障害に対する抵抗性の増強を示唆する薬剤の研究成果も出始めている。
病気や雑草による米の収穫ロスは、50パーセント
収穫を蝕むあらゆる原因から完全に作物を保護してやることは、農業生産の理想だ。ここに、その理想と現実を数値化した興味深い統計がある。(図1)完璧な防除を実現したときの世界のコメ生産高を100としよう。何の保護もせずに生産を行った場合、収穫高は5分の1の20となり、残りの80はすべて収穫ロスになっている。80の内訳は、雑草と害虫がそれぞれ30で合せて60、残りの20は病害である。できる限りの保護を行った結果の現実の収穫高は、理想と比べてそれでも50。ロスの原因は、雑草と病害がそれぞれ15、害虫が30となっている。この統計によれば、米に限らず、世界の国々の主要作物である麦やジャガイモでもほぼ同じ結果がでている。
世界農業のもっとも大きな課題は、収穫を2倍にすること
過去30年間、地球上の農地面積はほとんど増えていない。今後、劇的に増える予測もない。一方、同じ過去30年間に世界人口は34億人から57億人に増加している。その中で、食料不足のために栄養不良状態にある人口が8億人。あと30年もすれば、57億人の人口は約2倍に膨れ上がると推定されている。つまり、農業の地球規模での課題は、単純に言えば、食糧生産を2倍にすることである。焼畑による一時的農地の増加など、環境負荷の大きい方法は賢明ではない。唯一確かな方法は、限られた農地での収穫量を上げることである。
作物保護のおかげで、さきほど見たように、米の収穫量は20から50まで向上している。農地を増やさずに、食糧生産を2倍にするとは、現在の50を今後いかに100にしていくか、逆にいえば50のロスをいかに0にしていくかの対策がもっとも現実的だ。他にも、作物の生育サイクルを人為的早め、収穫回転率を高める方法(例えば、田植えから稲刈りまでを2ヶ月でやってしまう)とか、品種改良により一株あたりの穂数を高めてやり理想の収穫値を100から150、200にしていく方法も考えられる、が、現実のものとなるまでしばらく時間がかかりそうだ。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
植物の力 その神話と科学
植物を栽培することから、人は自然の一部として自らの循環を学んだ。神話の創造は、その学習の結実だった。やがて、植物のメカニズムを探ることから、科学が芽生えてきた。科学力によって、食物の確保は安定して、人の数は増えつづけた。未曾有の人口増加は進み、人は今、種として地球上で絶頂期をむかえている。同時に、地球規模の食物危機に直面し、さらなる植物生産性の向上を追求せねばならなくなった。対処療法的な生産技術の開発だけが、本当の解決法になるのだろうか。新しい解を求めて、人は再び植物のメカニズム、抵抗する力そして進化する力に注目しはじめた。植物本来の力を知るためには、人も本来の神話する力、科学する力を取り戻す必要があるようだ。
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