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抵抗性という世界中で一律な植物保護
収量にロスをもたらす病害は、作物によっても地域によっても様々だ。それぞれの原因別に作用点を持つ従来の薬剤の場合、効果に即効性があるといっても、数多くの剤の開発と使用が世界中で必要となる。つまり、非効率的で非経済的な剤と言える。
その点、植物の抵抗性を利用する剤は、たいへん能率的な植物保護のあり方を示唆している。なぜなら、ヒトや動物の免疫機能と違って、植物の抵抗性は、ある特定の病気にだけ対抗するのではなく、一度獲得してしまえばほとんどあらゆる病気に抵抗力を発揮するからである。新しい技術だけにすべてにおいて万能だとは断定できないが、一番注目していい点は、ひとつの剤で、多数の栽培作物がかかりやすい様々な病気に抵抗性を発動させることにある。この特性は、従来の植物保護の非効率さを打ち破る画期的なものだ。
抵抗力は一度獲得されると長期間継続するので、低薬量でよくその経済性も従来の薬剤に比べて極めて高い。
植物の力がやがて農業を変えていく…
何もこの新しい植物保護剤が、他の防除技術にすっかり取って代るということを言っているわけではない。ただ、この剤の考え方が、近年の農薬や化学肥料に依存し過ぎた農業のあり方に、再考を求めていることは確かだ。
便利な農薬や化学肥料の使用の背後に、失われていった数々の農法があった。耕うん技術、輪作、水管理その他の管理技術など代々受け継げられてきた植物の間接的保護をもう一度見直してみる必要がありそうだ。
その上で、現代の科学技術に裏付けられたより高度な栽培的防除手段、生物的防除手段、農薬、肥料を適切に組み合わせるIPM(総合病害虫管理)の農法に移行していく時期にきており、すでに世界的な広がりをみせている。この防除体系の中に、植物の抵抗性を増強させる植物保護剤が加わることで、ICM(総合植物管理)への確実な道筋が見えてくるだろう。
耐性菌の出現の可能性がほとんどありえない
もう少し具体的な例を上げると、新しい植物保護剤はイネの抵抗性を高めることで、いもち病の感染を防ぐ。直接的な殺菌作用はないので、耐性菌の出現の可能性はほとんどありえない。また、殺菌作用がなく低薬量で用を足すので、環境への負荷が少ない。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
植物の力 その神話と科学
植物を栽培することから、人は自然の一部として自らの循環を学んだ。神話の創造は、その学習の結実だった。やがて、植物のメカニズムを探ることから、科学が芽生えてきた。科学力によって、食物の確保は安定して、人の数は増えつづけた。未曾有の人口増加は進み、人は今、種として地球上で絶頂期をむかえている。同時に、地球規模の食物危機に直面し、さらなる植物生産性の向上を追求せねばならなくなった。対処療法的な生産技術の開発だけが、本当の解決法になるのだろうか。新しい解を求めて、人は再び植物のメカニズム、抵抗する力そして進化する力に注目しはじめた。植物本来の力を知るためには、人も本来の神話する力、科学する力を取り戻す必要があるようだ。
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