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殺菌力のない殺菌剤 世界最初のプラントアクティベーター
なかでもノバルティス社の「バイオン」は、日本でイネの箱処理いもち剤として登録されている他、大麦、小麦、イネ、バレイショなど世界の主要作物についてすでに諸外国で登録、使用されている。また、トマト、メロン、レタス、バナナ、マンゴ、キャベツ、バレイショ、トウガラシなど多岐にわたる作物の防除薬剤として世界各国で登録済みである。ドイツでは、従来の農薬という概念を超えているとして、初めてプラント・トニック(植物活性薬)として登録取得している。
イネの病害でみると、いもち病のほかに白葉枯病に対しても高い効力が認められている。イネの抵抗力を伸ばすことでいもち病にかかりにくくしている特性は、白葉枯病にも同じく働くのである。この実例は、バイオンが本来殺菌剤ではなく、植物が本来備え持っている自己防御反応システムを活性化させる「プラントアクティベーター」である所以を物語っている。
収量増加のあとは…
世界の食糧危機を見据えれば、農業の課題は、安定生産と収量増加だ。成熟した消費社会においては、加えて安全、品質、食味、栄養、機能性などの価値が求められる。植物が病気でないとか農薬が入っていないといった安全の面だけではなく、やはり消費者はおいしいものが欲しい。これからは、それだけではなくて、ビタミンが多く含まれているとか栄養価が消費者にとっての問題になっていく。安全なものを追い求めた後は、抗酸化性や機能性の高いモノが入っている食物を重視してきている。
農薬の名を冠した「米ブランド」の登場か?
植物の病害抵抗性を付与するような物質は、植物の栄養価を高める効果があると推測されている。なぜなら、抵抗性関連物質の誘導と、ビタミンやポリフェノールといった機能性に関連した物質の産出とがリンクすることが知られているからである。まだ実証されているわけではないが、今後の更なる科学的検証が期待されている。
ノバルティス社のバイオンのカタログは挑戦的だ。米俵を重ねた写真の上に「バイオン米」と書かれた垂れ幕が描かれている。その横に「バイオン米と呼んでください。~消費者のニーズに合った米作りへ~」とのコピーがある。
「有機米」「無農薬」「減農薬米」ならスーパーでも米屋で普通にみるキャッチ・コピーだ。それは、農薬の負のイメージを裏返しただけの有機、無農薬、減農薬マーケティングの一種である。そんな農産物マーケティングの時代に、農薬メーカーが生産者へのメッセージであるカタログに農薬名を冠して「バイオン米と呼んでください」と書いてある。少なくとも、バイオンは、その作用性・安全性において、新しい農業と農産物マーケティングのあり方を示唆していることは間違いない。
従来の殺菌剤の概念を超越して、自然界に普通に存在する植物の抵抗性を利用した農薬だからこそ、生産者と消費者双方にアピールできる「農薬ブランド米」の登場である。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
植物の力 その神話と科学
植物を栽培することから、人は自然の一部として自らの循環を学んだ。神話の創造は、その学習の結実だった。やがて、植物のメカニズムを探ることから、科学が芽生えてきた。科学力によって、食物の確保は安定して、人の数は増えつづけた。未曾有の人口増加は進み、人は今、種として地球上で絶頂期をむかえている。同時に、地球規模の食物危機に直面し、さらなる植物生産性の向上を追求せねばならなくなった。対処療法的な生産技術の開発だけが、本当の解決法になるのだろうか。新しい解を求めて、人は再び植物のメカニズム、抵抗する力そして進化する力に注目しはじめた。植物本来の力を知るためには、人も本来の神話する力、科学する力を取り戻す必要があるようだ。
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