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土壌別経営診断うちの土ではどう作る?

静岡県相良町・鈴木秀明さんの場合

圃場・改善のポイント/土のしくみ・はたらきを知る
宿根性作物ガーベラの安定低コスト栽培



 世の中の情報が伝わるスピードが速くなり、あっという間に多くの人が手間をかけなくても簡単に物事を知る仕組みが出来てきました。通信手段の進歩がこの現象を急速に推し進めています。

 家庭にいても情報が得られる、世の中の動きがつかめるという気にもなってしまいますが、それは正しい理解ではないでしょう。

 誰に伝達されても、それが生かされていく情報を入手しても、それは趣味や暮らしの情報ならともかく、経営情報となると戦力になるものではないはずです。

 今回のテーマは花卉園芸の切り花栽培です。

 この切り花は日本市場が価格的魅力にあふれたところであるため、近隣の韓国をはじめ、ヨーロッパなどからも飛行便を使って輸入されています。

 国内の切り花生産者が10年前のバブル期に味わった好況はあっという間に消え去り、厳しい市況下にあります。

 この輸入花による影響は強まることはあってもその逆はありえないでしょう。

 その低迷する市況の中でもガーベラの切り花は安値安定になってしまっています。

 うまく栽培できても経営は困難なのですから、生育障害が発生したら、当然持続不可となるわけです。

 そんな厳しい花市場に対して、近年経営規模拡大をはかり、しかも独特の技術開発によって良品多収を確保している鈴木さんを訪問しました。

 静岡県中部の海岸線沿いは花卉園芸が盛んで、カスミソウやトルコギキョウに取り組んでいる人が多い地域です。

 鈴木さんも当初はトルコギキョウの栽培を手掛け、その後ガーベラに移行したということです。

 ガーベラはキク科の宿根草であり、基本的には強靭な植物と考えてもよいでしょうが、集約的に施設栽培をすると、厄介な土壌病害に悩まされることが多くあります。

 その主なものが、半身萎ちょう病というものです。

 これは、株全体あるいは茎の一部の葉が萎ちょう(これは病的にしおれること)して葉緑部から枯れ、茎の維管束は赤褐色から暗色となってしまうものです。

 発病すると葉や茎の半分ほどが先に萎ちょうすることから、半身萎ちょう病と名づけられています。

 その病原菌はVerticillium dahliae Klebahnというものです。極めて多犯性で260種以上の植物に寄生するという報告もあります。

 病原菌の特徴は長期間土壌中に残ることで、発生する特定の場所を消毒したり、有機物を入れて微生物活性させ、バランスを作っていっても効果がないという厄介なものです。

 この特定の場所というのは、同一ハウス内の一定場所にスポット状に発生するということですが、発生の激しい場合は全体に出るということです。

 この病原菌の発病適温は25℃付近で涼しい場所を好み、病株も夏季には回復します。

 この病気は一度発生すると、その場所での根絶は難しく、ガーベラ栽培家最大の問題のようです。

 この問題に対し、鈴木さんは独特の考え方と栽培法を確立しています。

 まず、基本に忠実にということで、施設土壌の疲弊を回復させるために、自家製堆肥を植え替え時に施用していることが一つです。

 次に土壌消毒の徹底があげられます。

 これには議論がいろいろあるかと思いますが、発病を抑える手段としては有効です。

 ただし、現実には消毒剤の製造中止がせまっているわけですから、消毒剤がなくなる日の想定は当然必要です。

 さて、鈴木さんが実行している最大の取り組みは、点滴による灌水と液肥の施用のみならず、受け皿の部分に大変な工夫をしていることです。

 これは、鉢に受けたガーベラの苗をそのまま土耕の整形したうねの上に置き、これに点滴をそれぞれ配置することにより、鉢土の中でガーベラの吸収根をより多く発生させるという方法です。

 また鉢土は熟成した有機物をたっぷり含むことによって生物性が良くなり、水と空気と栄養が絶妙のバランスを保ち、鉢より抜け出た根の領域とは違った土壌環境が形成されます。

 鉢の選択にも工夫して、真中に一つ穴の開いているだけのタイプでなく、鉢底に放射状に穴を開けているものを使い、鉢全体をしっかり土に固定させています。

 この方式は病原隔離栽培とも呼べるものですが、最も大事なことは、これを見てマネた人が今のところ誰も鈴木さんのように成功していないということです。

 それは、土耕部分の成分によって鉢から出るガーベラの根の進出が阻害され、鉢から下に根が発生していかないということのようです。

 これは恐らく、過剰成分にるものだろうと思われます。

 支持根と吸収根の分離によってそれぞれの役割を明確にし、よりその機能を高めるという栽培法を発明した鈴木さんは、吸収根が適応できる土中環境を整えることがいかに難しいことかよく知っているからこそ成功したのだと思います。

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