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【江刺の稲】
転換期の稲作経営者の生き方
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第55回 2000年09月01日
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福島県いわき市に住む読者小泉秀雄さん(50歳)の話である。
小泉さんは借地を中心に16haの稲作をしている。米の販売は米穀店向けの契約栽培、旅館などの大口顧客を中心にした直売、それに農協出荷が三分の一の割合だそうだ。昨年度の場合でも、農協出荷分は最終的に1俵一万七千円という水準であり、自分で販売をするものも含めて米価が一気に下がっていくことを覚悟している。
しかし、小泉さんは稲専業の「自己完結型大規模米生産者」として発展するのではなく、兼業農家を顧客とする「サービス業者」としての事業展開をとることによって低米価時代の経営戦略を見出している。
小泉さんの作業請負は秋作業が中心であるが、一連の稲作作業の他、苗販売や冬場の暗渠施工まで幅が広い。昨年度の請負実績は、収穫・乾燥で約40ha。田植や耕うん・代かきが15ha程度。苗作りも約1万5千枚。自分のほ場と田植セットで請け負う面積分を差し引いても、半分は苗として販売している勘定だ。
小泉さんの苗は、保温折衷苗代に準じた方式で田をローラーで均して箱を並べ、薄播きで葉齢をかせいだ中苗。苗の値段は農協の育苗センターと同じだが苗の配達はしない。それでも本田での活着が違う小泉さんの苗は断然人気がある。
反対に、収穫・乾燥に関しては、農業委員会の標準作業料金10a二万七千円に対して、小泉さんは三万円。もっとも、引き受けている水田の区画が平均で20~30a、一番大きなほ場でも40aと作業条件は良くない。そのために、コンバインベースマシンは5条刈が2台であるが、狭い湿田での作業に対応するために2条刈の機械を常にスタンバイさせている。乾燥設備にしても、60石から32石まで合計7台を並べ、「顧客満足」に気遣ったきめ細やかな配慮をしている。
乾燥や籾摺りだけの注文も多い。籾摺りだけでも年間約1万俵だという。集まる大量の籾殻も、そのほとんどを暗渠の充填資材として利用し、作業を請負うほ場に暗渠施工するのが冬場の賃仕事になってもいる。
家族はご両親と奥さん、そして今年からは息子さんが加わった。春秋には雇用をするが、基本的には家族でこなす。
小泉さんは、自分の顧客の変化に注目している。これまで小泉さんに仕事を頼んできたのは、2反、5反といった栽培規模1ha未満の反別の小さな兼業農家層だ。ところが、この1、2年前から1~3ha規模階層からの依頼が急激に増えている。そして、その背景には、米価の動向や機械導入費用だけではなく、兼業農家を囲む社会の構造変化があることに小泉さんは気付いている。
例えば、自己完結型の機械化を組んできた2、3ha層の兼業農家は、これまで農繁期には会社を休んで農業をしてきた。しかし、企業は農繁期に休む人からリストラの対象にしていくだろう。他に収入先があると雇用主は判断するからだ。
彼らは紛れも無いサラリーマンなのである。彼らにとって勤め先を失うことは生活を失うことだ。米価の低迷など兼業農家が農業を続けることへの本質問題では無いのだ。彼らは農家かもしれないが、農業を『業』として行う人ではない。だとしたら、経営収支上は見合うはずも無い高額の機械を買い、リストラされる不安を抱えてまで会社を休み趣味的な農業を続けるか。
小泉さんは借地を中心に16haの稲作をしている。米の販売は米穀店向けの契約栽培、旅館などの大口顧客を中心にした直売、それに農協出荷が三分の一の割合だそうだ。昨年度の場合でも、農協出荷分は最終的に1俵一万七千円という水準であり、自分で販売をするものも含めて米価が一気に下がっていくことを覚悟している。
しかし、小泉さんは稲専業の「自己完結型大規模米生産者」として発展するのではなく、兼業農家を顧客とする「サービス業者」としての事業展開をとることによって低米価時代の経営戦略を見出している。
小泉さんの作業請負は秋作業が中心であるが、一連の稲作作業の他、苗販売や冬場の暗渠施工まで幅が広い。昨年度の請負実績は、収穫・乾燥で約40ha。田植や耕うん・代かきが15ha程度。苗作りも約1万5千枚。自分のほ場と田植セットで請け負う面積分を差し引いても、半分は苗として販売している勘定だ。
小泉さんの苗は、保温折衷苗代に準じた方式で田をローラーで均して箱を並べ、薄播きで葉齢をかせいだ中苗。苗の値段は農協の育苗センターと同じだが苗の配達はしない。それでも本田での活着が違う小泉さんの苗は断然人気がある。
反対に、収穫・乾燥に関しては、農業委員会の標準作業料金10a二万七千円に対して、小泉さんは三万円。もっとも、引き受けている水田の区画が平均で20~30a、一番大きなほ場でも40aと作業条件は良くない。そのために、コンバインベースマシンは5条刈が2台であるが、狭い湿田での作業に対応するために2条刈の機械を常にスタンバイさせている。乾燥設備にしても、60石から32石まで合計7台を並べ、「顧客満足」に気遣ったきめ細やかな配慮をしている。
乾燥や籾摺りだけの注文も多い。籾摺りだけでも年間約1万俵だという。集まる大量の籾殻も、そのほとんどを暗渠の充填資材として利用し、作業を請負うほ場に暗渠施工するのが冬場の賃仕事になってもいる。
家族はご両親と奥さん、そして今年からは息子さんが加わった。春秋には雇用をするが、基本的には家族でこなす。
小泉さんは、自分の顧客の変化に注目している。これまで小泉さんに仕事を頼んできたのは、2反、5反といった栽培規模1ha未満の反別の小さな兼業農家層だ。ところが、この1、2年前から1~3ha規模階層からの依頼が急激に増えている。そして、その背景には、米価の動向や機械導入費用だけではなく、兼業農家を囲む社会の構造変化があることに小泉さんは気付いている。
例えば、自己完結型の機械化を組んできた2、3ha層の兼業農家は、これまで農繁期には会社を休んで農業をしてきた。しかし、企業は農繁期に休む人からリストラの対象にしていくだろう。他に収入先があると雇用主は判断するからだ。
彼らは紛れも無いサラリーマンなのである。彼らにとって勤め先を失うことは生活を失うことだ。米価の低迷など兼業農家が農業を続けることへの本質問題では無いのだ。彼らは農家かもしれないが、農業を『業』として行う人ではない。だとしたら、経営収支上は見合うはずも無い高額の機械を買い、リストラされる不安を抱えてまで会社を休み趣味的な農業を続けるか。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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