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【農業経営者ルポ「この人この経営」】
究極のサラダホウレンソウを目指して
- 編集部
- 第16回 2000年10月01日
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サラダホウレンソウを13回転、新規就農者の画期的栽培法
実は、辻さんと筆者の出会いは4年前に遡る。拙著「農業で独立する方法がわかる本」の巻末に、就農データバンクと銘打って新規就農希望者の受け入れ先情報を掲載した。そのとき快く協力してくれたのが辻さんだった。
全国56ヶ所の自治体や生産者から集まった情報の中で、私が最も印象深かったのが辻さん直筆のメッセージだった。経営スタイルや給与システムなどの斬新さ、その一つ一つの内容を正確に伝えようとする姿勢が強く心に響いてきたからだ。そのとき、この人は何かを伝えたい人なのだと直感した。そして原稿締め切りが迫っていたため、取材に出向けないことが残念でならなかった。
「企業型の新しい有機栽培農園を経営する起業家が、スタッフ募集の熱きメッセージ」
これがこのとき、一度も目にしたことのない「つじ農園」のページに私がつけた見出しだ。当時とは経営の内容や受け入れ態勢に若干の変化はあるが、辻さんと「つじ農園」の有り様を示す意味では、今も変わらず当てはまる表現だと思う。
辻さんは農業経営者である前に起業家だ。何の基盤もない白紙の状態から、阿蘇山麓の小さな集落に入植。前例のない栽培方法を試行錯誤の末に完成させ、完全無農薬有機栽培によるサラダホウレンソウの年13回転を実現した。販路も自力で開拓、スーパーやデパート、レストラン、病院等を相手に、全量契約栽培によって事業を拡大してきた。
「農業をはじめて9年。やっと部落の人たちから一人前として認めてもらえるようになってきた」
新参者の村落生活の苦労をふりかえりながら、ため息まじりにそう語る。彼の努力と実績を客観的に見たら、もっと好意的に、高く評価されてしかるべきだ。不屈の精神でたゆまざる努力を重ね、次代を背負う農業経営の担い手と称されるに足る実績を残している。しかしこの町にかぎらず、この国の“村社会”はそんな常識を受けつけない。だからこそ、このルポでは辻さんの成功物語ではなく苦闘と山積する課題を伝えたい。そこに日本の農業を憂い、新しい農業に挑んでいる生産者たちが共有できる明日への手がかりがあると思うからだ。
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