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農業経営者ルポ「この人この経営」

究極のサラダホウレンソウを目指して

 こうして2年目、3年目は技術開発と販路開拓に明け暮れた。なんとか周年栽培のメドはたったものの、この時点で台所事情は火の車。就農にあたって持参した預金も底をつく寸前で、今年ダメなら農業を諦めるしかないというギリギリの状態に追いこまれた。そんな就農4年目に1,400万円を売り上げ、やっと経営が軌道に乗った。

「よく取引先にホウレンソウしかないの?と言われて、サラダシュンギクやパセリ、コマツナなど、少しずつ品目を増やしてきました。これをいかに単一の技術でやるかという壁もあり、シュンギクの場合は成功まで3年かかりました。見た目にはアホみたいな技術だけど(笑)、これをみんな同じ畑で作っているんですよ」

 辻さんに「脱サラ組が土地資本に投資するほどバカらしいことはない」という合理精神がなかったら、このような技術が陽の目を見ることはなかったかもしれない。就農希望者がぶつかる用地確保という難題は、柔軟な発想と技術で克服できるという好例だ。

「技術の壁をクリアしたら次はコストダウン。たとえば一つの苗箱に128ブロック置いていたのを、200ブロックにしたらコストは6割減りました。密植によって苗が徒長するといった問題もあったけど、技術開発によって乗り越えた。ずっと試行錯誤の繰り返しで失敗だらけですよ。でも誰もやっていないからこそ、やる価値がある。せっかく脱サラで就農したんだから、新しいことをやりたいね」

 土地・技術・キン(金と筋)のない“三なし農業”と本人は言うが、けっして消去法的選択で選ばれたわけではない。農業経営者として大きなハンデキャップを抱えていたからこそ、それを逆手にとって新しい農業経営を見出した。まさにベンチャーたる起業家の発想だ。


消費者に喜びを提供するソフト事業に取り組みたい


 「かくして生産者として認められ、地域を代表する担い手に」で話が終われば農業もラクなものだ。だが、そうはいかない。追い風は同時に家族経営の規模的な限界を露にし、それでも走り続ける辻さんの身体も追い込んだ。

「一時は年間売上が3,000万を越えました。それで所得税の額を見て慌てて法人化したんです。ところがその後、台風にやられて売り上げは半減。去年は両目の網膜剥離を患って手術。動くに動けず女房一人に仕事を任せざるを得ませんでした」

 目を患う直前、農園は30人もの作業スタッフであふれかえっていた。消費者に苗を販売する「キッチンガーデン事業」を立ち上げ、チャンネルとなるホームセンターへの出荷に自転車操業が続いていたからだ。

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