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特集

ケーススタディー だから彼らは選ばれる
小さな市場の多様な取り組みと可能性

【☆7ヶ所の畑を飛び回る日々☆】

 現在、樋口さんはおよそ1ヘクタールの畑で野菜を育てている。その広さは決して大きくはなく、むしろ小さいくらいではないだろうか、と樋口さん自身は言う。規模は小さいかもしれないが、7ヶ所に分散しているために、毎日の作業はとてもたいへんだ。朝から千景さんと手分けして、車とバイクで各畑の手入れや収穫に走り巡る。

「畑の周りは住宅地が迫っています。自宅から車で10分ほどの距離の畑もあれば、桂離宮近くの河川敷の畑のように、昼間で片道30分の道のりになるところもある。ですから、移動だけでもたいへんです」

 しかも、栽培している野菜の種類は、年間で40種類を数える。今、葱の土起こしをしていたかと思うと、軽四輪に飛び乗って別の畑に行き、ほうれん草や菊菜などを収穫し、さらに雨が降りそうになれば種蒔きを控えた水はけの悪い畑へ行き、土がぬれないようにハウスの横の窓を閉めるという具合。とにかく休む暇もないほどだ。しかも、夕刻までにその日の野菜を取り終えなければならない。日の長い夏はまだしも、日の短い冬場は一日中駆け足をしているようだ。

 収穫した野菜は納屋の軒先で汚い葉を落とし、きれいに水洗いする。そして、ふり売り用、市中の料理店へ配達するもの、さらに東京などの注文には宅配便用に梱包する。

「野菜の命は、いかに作るかということと鮮度の二つ。農協へ共同出荷しないのは、自分が作った野菜は自分で責任をもって相手に届けたいからです。ふり売りも同じです。母が巡っている近くにもスーパーがありますから、お客はそちらを選ぶこともできる。でも、そうしないで樋口の野菜を買い求めてくれる。それは野菜を通して生産者である私たちの顔が見えることと、鮮度がよいことを知っているからです」

 栽培方法と鮮度の両方がよくなかったら、野菜としての商品価値はない。青葱一つとってみても、包丁で切ってみればその違いは一目瞭然。さらに味噌汁や煮炊きして食べれば、もう何もいうことはない。

 だからこそ、樋口さんは夕方の、暗くなるぎりぎりに収穫した野菜を翌日の商品にする。夏場の野菜は、鮮度落ちが早いために当日の朝に採り、少しでも鮮度のよい状態でお客に届けることを心がけている。

 樋口さんが40種類もの多品種の野菜を生産しているのは、ふり売りのお客の要望に少しでも多く応えるためだ。野菜の種類が少ないと、お客にとっては選択の幅がなくなってしまう。つまり、いろいろな野菜を揃えることも、ふり売りには欠かせない。そこで、多品目少量生産の態勢を取っている次第だ。

 樋口さんの野菜には、虫喰いで穴が空いていたり、昆虫の幼虫がいることもある。注意して掃除しても見落としが出る。お客によっては、この虫喰いの葉があるだけで拒否反応を示す人もいる。特に若い世代に多い。反面、健康や低農薬栽培に関心のある人たちには、すんなりと受け入れてもらえる。野菜を買い求める客層の幅が広くなっているため、コミュニケーションがことさら大切になる。

 お客が変化していることもさることながら、樋口さんの野菜作りの環境もむずかしくなりつつある。どの畑も、境界線ぎりぎりに住宅が迫っている。そのために、風によって舞う細かい土や撒水などが問題になる。土起こしや撒水する時には、樋口さんは風下の家に断りを入れたり、収穫した野菜を配るなど気を配る。畑に撒く水はすべて水道水。その費用もバカにならない。

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