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特集

ケーススタディー だから彼らは選ばれる
小さな市場の多様な取り組みと可能性

【☆京の伝統野菜に光をあてる☆】

 樋口さんについて語る時に、忘れてはならないのが京野菜である。賀茂茄子、鹿ケ谷南瓜、鷹ヶ峯唐辛子、聖護院かぶら、聖護院大根、堀川ごぼう、すぐき、九条葱、辛み大根などの京野菜を、樋口さんの家では代々作り続けてきた。樋口さんの父健次郎さんの代には作った京野菜を市内の料亭に納めていた。しかし、それは特別な注文で、とても収入として期待できるほどのものではなかった。それが樋口さんの代になると、それらの在来種が伝統野菜として京都の老舗料理店の主人や料理長から注目されるようになる。それがきっかけとなり、樋口さんは京野菜をはじめとする野菜を料理店へ直販するようになった。今では口コミでその輪が広がり、京都市内だけでなく、東京や広島などの料理店からも注文が入る。さらに、都内の高級スーパーからも受注している。

 ぽってりと丸く育った賀茂茄子、霜が降りるくらいになるとどろっとした粘液が軸の中にできる1メートルを超える太く育った九条葱など、いずれの京野菜も個性的だ。最近、スーパーなどで50~60センチの葱が九条葱の名で販売されているが、樋口さんのそれと比べたら、まさに月とスッポン。まったく別のものとしか言いようがない。

 そして、樋口さんは取引する料理店の若い調理人に、自分で畑に取りに来ることを勧める。畑で育った野菜を見たり、口にしたりすることで、その野菜本来の特徴を理解できる。現在、大半の料理店は電話一本で野菜をはじめほとんどの食材を仕入れている。しかし、それではそれぞれの野菜のもつ季節感や食べ頃などをきちんと正しく知ることはできない。若い調理人に少しでも野菜のことを知ってほしいと、樋口さんは願っている。

「京都の老舗料亭に修業しに来ている若い調理人たちは、将来は自分の店を持ちたいと頑張っている人たちです。ぜひとも野菜のことを正しく知ってもらいたい。私自身はそういう人たちと話しをすることで、料理人がどういう野菜をほしがっているのか、それをどういう料理に使うのか、といった情報の交換をして、野菜作りに反映させたいと思っています」

 そのようにして料理修業を終えて郷里に戻った人の中から、樋口さんの野菜を店で使いたい、と連絡してくる者も出てきた。

「しかし、料理店との取引は、ふり売りとは違ったむずかしさがあります。つまり、料理長がどのような献立を組むのかを知らなければいけません。その店との情報交換を密にできなければいけない」

 現在の料理店は、素材である野菜に旬の先取りを求める傾向が強い。それに合わせて樋口さんは野菜を出荷できなければいけない。もし時期がはずれ、料理長が献立を書き換えてしまったら、たとえよくできた野菜でも不要になる。きびしい世界だ。

 この料理店の需要を樋口さんがどのように掘り起こしていくか、そしてふり売りとどうバランスを取っていくか、大いに期待したい。
(藤生久夫)

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