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農業経営者ルポ「この人この経営」

異質な者が出会う葛藤と共感の中に

山形県の庄内地方に鶴岡市と酒田市にはさまれて東田川郡藤島町という町がある。町政要覧によれば、町の経営耕地面積は約3千600ha、そのほとんどが水田という文字通りの稲作地域である。
●水田地域での畑作野菜経営の創造


 山形県の庄内地方に鶴岡市と酒田市にはさまれて東田川郡藤島町という町がある。町政要覧によれば、町の経営耕地面積は約3千600ha、そのほとんどが水田という文字通りの稲作地域である。人口は約1万2500人、世帯数約3000戸の内、行政区分上の農家が約1100戸を占めるという農家の町だ。とはいえ専業農家は54戸に過ぎない。藤島町が求められている転作面積は25.6%の約900ha。そこに、平成11年から加工用バレイショの契約栽培をきっかけに、水田地域での畑作的野菜経営の確立を目指す集団がある。「藤島町土を考える会」という生産組織を作り、カルビーポテトとの契約生産を行っている14名の稲作農家と、それに呼応した一人の畑作農家である。その母体となったのは複式簿記の研究会から始まった「藤島町フロンティアクラブ21(FFC)」のメンバーだ。

 彼らの取り組みは、単に稲に代わる「転作」として始めた加工用バレイショの「生産」ではない。水田地域で田畑輪換による機械化畑作野菜経営を実現するための地域営農システムの確立を目指す「経営実験」に、自らのリスクで取り組んでいるのである。麦や大豆など、行政から与えられた明確な需要者も将来の展望も見えない転作に満足するのではなく、自ら顧客を求め、市場の要求に応えればこそ求められる経営を目指す、農業経営者たちの「自己改革」へのチャレンジなのである。そのために地域の異質な個性が力を合せる。さらには農産物需要企業、技術提供メーカー、他地域の思いを同じくする農業経営者たちに至るまで、立場の異なる様々な人や企業が彼らのチャレンジに共感し協力を寄せている。山形県農業会議の人々の協力もあった。本誌も協力した文字通りの地域や業界を越えた経営実験である。立場の異なる者たちが、困難であっても甘えの無い対等なパートナーシップを求めて、その出会いと共同の中からこそ生み出される未来に賭けているのだ。

 まだ取り組み初年度の収穫も終わらず、先も確とは見えない99年の8月20日に、「水田地域での畑作野菜経営の創造」と題した実演研究会(主催:山形県稲作経営者会議、山形県農業会議、藤島町フロンティアクラブ21)を自ら呼びかけて開催した。情報の限られた農家や行政・農協関係者への情報提供と、自分たちの目指す農業経営の未来への理解を求めるためである。

 需要者の立場で今回の取り組みに協力したのはカルビーポテトだが、研究会には同社の了解も得て足立松源やセイツーといった有力野菜卸にも参加を求めた。さらに、経営実験の意図に共感する機械メーカーの協力で、水田での畑作経営を可能にする営農的基盤整備技術や大形畑作機械の実演も行った。

 平成11年に13名14haで始まったこの取り組みは、翌年は10haに面積を減らしたものの、3年目の今年は15名に参加者を増やし約10haの生産を予定している。さらに、12年には大型ポテトハーベスタ、ポテトプランタ、カルチベータを導入して畑作機械装備を充実させた。また、加工用トマトやダダチャ豆など、新たな作物への取り組みと、それによる地域での就業の場を増やす試みも始まっている。

 この事業の中心にいるのは三人の農業経営者だ。「藤島町土を考える会」の責任者でもある高橋浩さん(44歳・23号「農業経営者ルポ」で紹介)、地域で一人だけ早くから畑作農家として4.5haのバレイショ生産に取り組み、この事業を地域の畑作農家として支えてきた叶野幸衛さん(48歳)、そして、この困難な取り組みに仲間を誘い励まし続ける役割を果たしてきた飯鉢藤夫さん(53歳)という、全く個性の異なる三人の人々である。そして、想像する通り彼らの取り組みは容易なものではなかった。

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