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読み切り

セーフガード発動をめぐる思惑

▼イエスかノーかだ


 どんでん返しはその大臣会見の2日前に起きていた。その日、自民党本部で開かれた農業基本政策小委員会(委員長・松岡利勝委員長)。9月にセーフガード発動せずと言明していた石原局長が、松岡・前委員長の吊し上げを受けていた。このやりとりを聞いていた関係者の話から再構成してみた。

 「石原君、一体いつまで(野菜の一般セーフガード発動に向けた調査の)整理を続ける心算なのか。3日なのか。1週間なのか。期限を切れ」

 「そういうことにはお答えしかねます。確かに農水省がこれまで常時、日本全国の野菜の動向を監視していたとは言えませんが、セーフガード発動には手続きが必要です」

 「それじゃ、農水省は一体これまで何をやっていたんだ。君たちは仕事を放棄しているのも同様だぞ」

 そこへ石破茂・前統括政務次官が割って入った。

 「お叱りはごもっともですが、農水大臣も(調査開始を)急げと指示しておられます。農水省も調査の必要性は認識しています。今週中にも(正式な)調査開始を呼びかけることになると思われます」

 石破・前統括政務次官の言葉尻をとらえた松岡前委員長は一段とボルテージを上げてきた。

 「それならなおさらのことだ。農水大臣にはやる気があるのだろう。それなのに何故、遅々として対策が進まないのだ。そのことに対して怒っているんだ。大蔵省も通産省もしょせん管理官庁だ。農水省が野菜のセーフガード発動を行うと言えば、否定できないハズだ。緊急発動しろ。政府与党がそう言っているんだ。発動に向けて省令や告示で支障があるなら、政治が改める。発動するには輸入野菜の国産農産物への影響がまだ明確になっていない?。国産農産物の供給の状況を把握する必要がある?。国産農産物の品質面も勘案する必要がある?。輸入野菜が増えたことが原因であることは最早、“明々白々”である」

 松岡前委員長のド迫力に石原局長も青菜に塩だ。泣く子と地頭には勝てぬと思ったのか、か細い声で「努力します」というのがやっとだった。

 それでも松岡前委員長は矛を収めなかった。石原局長を指差し最後の一発だ。

 「努力じゃない。君はもうやめろ。もういらないよ。(中途半端な発動を行えばWTOのパネル裁判で負ける可能性もあるが)国益を考えて,まずは止めるんだ。これからは総括政務次官と協議する。輸入野菜を止めろ。出来るか否か、イエスかノーかだ」

 中途半端な発動とは、発動要件を満たさず、相手国からWTOのパネル(貿易紛争の裁判所のような機関)に訴えられ、「クロ」と判定されることである。松岡・前委員長は、それでも発動せよと石原局長に迫っていたのだ。

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