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特集

「そんなに“シャチョウ”と呼ばれたい?」 ちょっと待て、あなたの法人化の理由はナニ?  ―農業法人経営者190人に聞きました―

【家族経営のルール】

昆 家族経営ということでの苦労はありませんでしたか。

横川 最初にいくつかのルールを決めました。まず社長にはいちばん年上の人間が就く。それぞれの嫁さんには経営に参加させないし、口出しもさせない。兄弟の給料は同じにする。自分の子供も経営には加えない…などです。年上を社長にするというのは、私たちにとっては自然なことでした。亡くなった父が封建的な人だったので、子供のころから年上を敬うことを徹底的に教わっていました。それに、年下の社長が年上をうまく使うということも簡単ではありませんから。

昆 家族を経営に参加させないというのは?

横川 兄弟は25%ずつの経営権を持っていますし、給料も同じなので、もめることはありませんでした。ですが、嫁さん同士となると事情が違ってくる。給料が同じでも嫁さんのお金の使い方で、それぞれの家の暮らしぶりは違ってきます。しかもお互いが近くに住んでいると、家電品が多いとか少ないとか家庭のことがわかってしまい、もめる元になってしまう。築地の頃、兄弟経営をしている人の話しを弟から聞いていたので、最初から口出しをさせないとか、近くには住まないようにしようと決めておいたのです。

【確信がないなら法人化は止めた方がよい】

昆 農家の多くは、横川社長のような創業者ではなく、後継者である場合が多い。親の農業を受け継いで法人化する場合と、白紙からの創業では違いがありますか。

横川 違いはないと思います。法人化するときに一番大切なのは、法人化そのものではなく、「次のステップにいかにつなげるか」ということ。私が法人化したのは、「事業を大きくしたい」という夢があったからです。だから個人商店ではなくはじめから法人にしました。もし後継者の人で、「いまの農業をそのまま継いでいくだけでいい」「できるところまでやっていこう」という気持ちなら、法人化する必要などないと思います。また、法人化しようかどうか迷っているぐらいならやめた方がいい。確信もなく、目的が明確でないことに対し、時間とお金と神経を使うのは無駄です。逆に、拡大したいという夢を持っているなら法人化すべきです。拡大させたいという夢を実現させるには、いまのままの農業ではなく、株式化していくしかないと私は思っています。

【「規模」ではなく「価値」のある経営】

昆 法人経営に移行して、それまでと大きく変わることはどんな点ですか。

横川 株式化するということは、「他人の資本を入れること」、そして「他人の労力を借りる」ことです。そうすることで、資本と経営が分離し、経営者と被雇用者という関係も生まれる。親から受け継いだ人は特にそうかもしれませんが、雇う側と雇われる側の区別をはっきりさせられないことが多い。人を雇っていたとしても、「一緒に働いてくれる仲間」としか見られない。つまり労使という感覚がないのです。私は、そうした農業では限界があると思います。これからの農業は、「組織化」「システム化」「生産性を高めること」がキーワードだと思います。法人化すると、これまでのようにすべてが自分の思い通りには行かなくなる。不本意でも、他人の意見を聞いたり、他人の資本を入れたりすることが必要になる。しかしそうすることが、海外との農業に打ち勝つための条件の一つになっていくと思います。

昆 法人化するということは、やはり規模拡大をめざすということでしょうか?

横川 そうとは限らない。大事なのは規模拡大ではなく、価値がある経営をしているかどうかということです。例えばジョナサンは、いまでは総店舗数が300店を超えました。でも、そのことを評価しているのは、納入業者と投資家だけなんです。お客さんはどうかというと「店が増えたために、かえって商品やサービスが悪くなった」という。「100店舗ぐらいの時のほうが、商品もサービスもよかった」という人の声もあります。投資家や業者が言うこととお客さんが言うことは違うということを、経営者は自覚しないといけない。価値というのは「顧客からみてどうなのか」で決まります。農業経営者も「誰からみて価値があるのか」ということを、常に考えて行動する必要があると思います。


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