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新・農業経営者ルポ

イトミミズとイナゴに学んだ経営者


ビオトープの造成と新たな悩み

 生物相が豊富になった要因は、農薬を散布しなかったからだけではない。杉山の水田環境に多大な影響を及ぼしているのが、水田の面積を削って造成した「ビオトープ」の存在である。このビオトープが生き物たちの棲み処になり、その多様性を高めているのだ。一番大きなビオトープは、水田面積の実に17%を占めている。近隣の農家からは、「杉山は田んぼでコメじゃなくてドジョウを育てている」などと嘲笑を買った。

 良くも悪くもビオトープのことは口コミで広がり、気がつくと、すぎやま農場には年間250名もの見学者が訪問するようになっていた。ときには中国や韓国の農家が視察に訪れることもあった。予想外の展開に杉山は困惑しつつも、誰に対しても快く農場を開放している。

 だが、杉山がビオトープを造成した最初の目的は、生物相を豊富するためではなかった。海岸の干潟のように、水質を浄化する機能として期待したのである。併せて、冷たい用水の水温を高めることや、用水をエアレーションする効果を期待していたに過ぎなかった。最適な深さや長さなどについて試行錯誤を重ねた結果、本来目的としていた効果を得ると同時に、生物相を豊富するという予想外の効果も知ったのである。

 しかし、生物相が豊富になったことで、杉山は思わぬ悩みを抱えることになる。それは農作業時に大量の生き物を殺生してしまうことだった。ロータリで耕うんすると、大量のドジョウやミミズを切断してしまう。またコンバインで収穫した収穫物には、生き物たちの死骸が大量に混入していた。杉山には、彼らの叫び声が聞こえたような気がした。

 「人間は自然の生命を犠牲にして生きていると理解はしていました。でも、奪う必要のない生命までも大量に犠牲にしていたんですね。有機農業は農薬や化学肥料を使用しないから自然に優しい農業だと信じていたけど、それは人間の都合だけの狭い考えにしか過ぎなかったんです」

 ビオトープの効果もあり、生き物たちはどんどん増えてくる。しかし、生き物たちを殺生したくはない。そんな葛藤が生まれ、杉山は有機農業に対しての新たな方向性、具体的な問題解決の方法を模索することになった。


「宮中祭祀」との出会いと衝撃

 そんな時、杉山は本誌連載「オカルト農法」の筆者との縁で「宮中祭祀」の伝承者である白川学館の七沢賢治氏と出会い、「実験祭祀」の試験圃場を提供するようなった。

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