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【シリーズ TPP特集】
TPPの解き方(2)
【日墨FTA首席交渉官が明かす ニッポンの国際交渉力〜真の実力〜とは】
対談!慶応大・渡邊頼純教授&農業ビジネス編集長・浅川芳裕(1)
- 慶応義塾大学 総合政策学部 教授 渡邊頼純
- 2013年01月09日
GATT事務局での勤務のほか、日本・メキシコのFTAでは首席交渉官を務めるなど、名実ともに自由貿易交渉の第一人者である慶応大学の渡邊頼純教授。FTA交渉の実態のほか、TPPをめぐる国内議論について聞いた。農業ビジネス編集長・浅川芳裕との対談。(編集・窪田新之助)
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オールジャパンで意見交換
浅川 渡邊先生はWTOやFTAに関する多くの著作があるほか、日本とFTA交渉では首席交渉官を務められるなど、理論・実績ともにTPPを語る上での第一人者です。TPPもFTAの一種ですが、一体交渉がどう始まり、どう進められるかは一般的には知られていません。日本の交渉力を分かってもらうためにも、まずはそのことから伺えますか。
渡邊 いいですよ、その話をしましょう。FTAを始めようとなったら、互いに1年に及ぶ合同研究会と称する勉強会から始めます。メキシコとのEPA※1では、いわばオールジャパン。農業界も産業界も入り、双方がメリットとデメリットを出し合って、1年後に報告書をまとめた。これはガス抜きの意味もあって、「利害関係者の意見を勘案したうえで交渉に入ります」という意思表示です。最終的には、勉強会の座長から報告書を総理や大統領にそれぞれ手渡す。それで良ければ、首相や大統領から政府関係者に交渉開始の指示が入り、二国間の首脳会談で華々しく打ち出してもらうといった流れになります。
浅川 交渉に入ってからは、どう進むのですか。
渡邊 メキシコとのEPAでは交渉は一週間ずつでした。まずは首席交渉官から担当官までが参加する全体会合で、交渉項目をおさらいするわけですね。これを1週間の交渉の最初と最後でやる。この間は個々ばらばらの作業部会での交渉です。部会は農業の関税や非農産品の関税、原産地規則など10以上ありました。ここでセンシティブ品目、つまり「聖域」を出す議論や原産地ルールの議論もするわけです。これを交渉開始から署名まで毎月、23カ月続けました。
緻密で大胆な駆け引き
浅川 どんなリクエストをしたんですか。
渡邊 日本からのリクエストは鉱工業品、自動車関税や自動車に使う鉄鋼や鋼板ですね。関税をゼロにしてもらわないと困ると。これに対して、FTAを多数締結してきたメキシコ側は名うての交渉官揃いで、彼らは冒頭こういうことを言ってきた。「鉄鋼品にかかっている関税を全てゼロにする用意はある。ただし、すべての原材料が日本製であるものに限る」と。そんな鉄鋼品はありえないでしょう(笑)。ですから、全ては日本の出方次第、何を出してくるのかという訳です。
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渡邊頼純 ワタナベヨリズミ
慶応義塾大学
総合政策学部 教授
在ジュネーブ国際機関日本政府代表部、GATT事務局、欧州連合日本政府代表部、外務省経済局参事官、外務省参与などを経て現職。主な著書に『TPP参加という決断』(ウェッジ)、『解説FTA・EPA交渉』(監修・編著、日本経済評論社)など。
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