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特集

経営者たちの農業改革 人からはじまる村おこし・町おこし

「商業(商店街)は、農業と同じように補助金漬けのなかにあった。商店街の衰退に政治・行政が手をさしのべるほど、衰退は加速した。自立の意志を失わせる役を担ってしまったのだ。スーパーなど大型店が個店(個人商店)を駆逐した、規制緩和が個店を潰した、という意見がある。それは部分的に事実を指摘しているが、かならずしも正確な経過の把握とはいえない。商店自身がどのような商売をしてきたのか、という経過の点検ぬきにそれを語ることはできない」(中沢孝夫氏著『変わる商店街(岩波新書)』より)農業の世界でも、米消費量の減少、輸入野菜問題、高齢化、後継者不足などが、農業に対するマイナス要因として各所で語られ、それらに対する対策費が行政から拠出されている。しかしまさに問われなければならないのは、それぞれの農業者がどのような経営(商売)をしてきたのかということのはずである。補助金漬けで衰退の一途を辿っていた商店街に、新しい風が吹きつつある。行政依存ではなく、リスクを自ら負いながら、そして商売を楽しみながら商店街をリードしその復興のために動く商店主たちが現れはじめている。その全てがうまくいくわけではないだろうが、そういった「人」たちの存在がない商店街には「未来」が作られることもないだろう。村おこし・町おこしの背景にもそういった人々の存在がある。そして、農業を変えていくのも、そういった自立の意志を持った農業経営者たちの存在であるはずだ。
 農業・商業・製造業、それぞれで大量生産・大量消費の時代が終わった。「モノを並べれば売れる(商店街)」時代でも「モノを作れば売れる(農業)」時代でもなくなった。国に保護されることがなかった製造業では、自らの力で改革し、国際的な競争力を持つ中小企業が存在する。国や行政の補助を受け続け、改革の遅れている農業・商業の再興はこれからであり、そのキーワードは「人」にある。

【出席者】
中沢孝夫(姫路工業大学教授)
大泉一貫(宮城大学大学院教授)
【司会】
昆吉則(「農業経営者」編集長)


地域ビジネスの時代へ


昆吉則(「農業経営者」編集長) 中沢先生の『変わる商店街』(岩波新書・2001年3月刊)を読ませて頂いて、そこに書かれている商店街の問題点とそれを克服していく人々の姿というものが、現在の農村あるいは農業界とそれを改革していく農業経営者たちの姿とがまったくダブって見えるほどに共通しています。そこで、本日は大泉先生と共に農村(農業)と商店街(商業)の活性化に共通する問題点と可能性というテーマについて話し合っていただければと思います。

 では中沢先生から、お願いします。

中沢孝夫(姫路工業大学教授) まず製者業と農業の関係から言いますと、大体どの国も同様なのですが、製造業は農業から生まれたんですね。たとえば鎌や鍬などの農機具を作るために、鍛冶屋や鋳物屋が生まれ、精密加工が発達してきました。そして、そこから繊維産業も発達してきたのです。このパターンは、そのまま農業から製造業への労働力の供給過程でもあるのです。たとえば日本で集団就職が盛んだった時代には、農家の次男・三男坊が東京に出てきた。そして例えば大田区の京浜工業地帯で働いていて、そこを出た人たちが、現在の工場地区を形成したんですね。関西の東大阪地区の工場地区も農家出身の集団就職者がこしらえたものです。その製造業が永続的な賃金労働者を生み、彼らを相手に、商業というものが成立してきたんですよ。それが現在東アジア全域で展開されているわけです。日本、台湾、中国の一部といった工業集積地かおりますが、そこにはタイ、マレーシア、インドネシアといった農村地帯が背景にあってはじめて先端技術が成り立っているという重層的な構造があるのです。

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