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女だからの経営論

1個580円でウーン… 一大メロンの生産地

妻がもたらす新技術


「農業とでなく、人間と結婚しました」

 と恵美子さんはきっぱり。

「嫁が来ないのを農業のせいにしないでほしい。この地区の人はみんな結婚が早いよ。私の同級生で孫を抱いてる人もいるほど」

 これまでの経緯をつぶさに説明する勇一さんに対して、肝心なポイントをズバッと突くのが恵美子さん。夫婦漫才の「大助・花子」の逆バージョンのようで面白い。勇一さんは奥さんの取材に、「秘書役」を買って出て、ずっと付き合ってくださった。なかなか気持ちの良いコンビである。

 そんな恵美子さんも、結婚当初を振り返ると、「最初は主人の後をついていくだけだった」という。同じ鉾田町の農家の出身だが、実家ではミツバの栽培を手がけていた。メロンとは文字通り「畑違い」で、

「ハウスは暑いでしょ。身体が慣れるまで、丸一年かかりました。明日はどんな作業をするのか、先が読めないうちはつらかった」

 結婚の翌年に長男、その2年後に長女を出産。年寄りに子どもを頭け、ハウスと自宅を行ったり来たりしながら、育児と畑仕事に追われる日々が続いた。

「農業そのものが面白いと思えるようになったのは、結婚5年を過ぎた頃かな。やっと自分の基盤ができた」

 長男を保育園に預け、普及所のすすめで農業簿記の勉強会に出席するようになった。それまで家の仕事と子育てが中心で、あまり出歩くこともなかった恵美子さんだが、簿記の勉強をとっかかりにして、積極的に他の農家の女性と交流を重ねていった。

 妻が家とは別の「基盤」を持つことを嫌うダンナも少なくないが、勇一さんはむしろ歓迎しているようだ。

「帳簿の勉強ばかりでなく、作物の話もできるご婦人方が集まっている。そこから自分の知っている範囲とは違った話を持ってくるんだ」(勇一さん)

 男性の集まりは、地元の限られた地域の馴染みメンバーが中心なのに対し、新たに生まれた女性グループは、比較的広範囲に住む、やる気のある女性たちが集っている。夫婦で同じ勉強会に出るよりも、別々の場で学んだ方が、その家の農業が活性化するという。

「その最も画期的なものが、土壌の太陽熱処理でしょう」

 と自慢気に語るのは、夫の方である。これは恵美子さんの仲間で、共に女性農業士でもある箕輪美代子さんから聞いたもの。

 収穫後のハウスに石灰窒素を入れ、上からビニールシートをかぶせて約1カ月おく。7月の猛暑の次期。ハウスの中の気温は60℃に達する。これは土壌に必要な菌を生かし、病原菌を退治するためのギリギリラインの温度なのだそうだ。石灰窒素には殺センチュウ剤の効果もあり、低コストで連作障害を軽減することもできる。

 恵美子さんから箕輪さんの実績を伝え聞いた勇一さんが、「おっかなびっくり」導入したのが3年前。思いのほか成績がよかったため、昨年からは全面的に利用している。さらに今年から細谷家の近隣の人たちも、導入するようになった。

 30数年前、勇一さんのお父さんがイチゴを持ってきたときもしかり。画期的な刺激というのは「外」からやってくるらしい。

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