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【江刺の稲】
大欲は志に通じる
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第67回 2001年09月01日
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「私はネ、欲が深いんだよ」
むかし、茨城県牛久市の高松求氏のお宅に通いつづけていた頃、高松氏はそう言った。
当時(1990年頃)、高松さんは自分で借りた畑を四人の農家で使いまわしにする交換輪作を行っていた。地代は等分に負担する。高松さんはその畑でダイコンやミシマサイコ、ラッカセイなども作っていたが、稲妻を基幹作目とする高松さんの作付けの中心は麦と大豆だった。他の三人はゴボウ、サトイモ、サツマイモ、ハクサイその他の野菜。
2年位をかけて一巡りの交換輪作をする過程で、高松さんはプラウをかけ堆肥を撒き緑肥も作った。麦や大豆作りのためでもあるが、むしろそれは仲間の野菜農家のために土壌のクリーニングや土作りをしているようにも見えた。交換輪作に参加している人々の腕もあるのだろうが、野菜の出来は素晴らしかった。そして、そこに関わった多くの企業の人々もそこから学んだ。
畑を工面し、各人の作付け計画を聞いて土地を割り当て、段取りをする。それで、面積当りの売上げは他の人の方が大きい。高松さんが他の人を呼び込むことで始まった交換輪作だが、参加した野菜農家の人々は「高松に悪いようだナ」と笑って話していた。
交換輪作の意義を語り、新しい技術を薦め、相手の実利で人を引っ張っていく。それだけではない。機械や種苗メーカーに働きかけて自ら地域の研究会を開く。自らの要求というより共に歩もうとする者のために新たな機械投資をする。さらに、農業や農家であることの可能性を語りながら、仲間の農家たちを励ますことへの協力を、僕や農文協の編集者たちに求め、また、それらの人々への気遣いをした。それは奥様への負担を増したはずだった。でも、そのための時間も作業も惜しまない。目先の金勘定をしたら高松さんは“損”をしているように見えた。
しかし、高松さんはこう言った。
「人は〝収穫〟に目を奪われがちだけど、農業の本質は〝戻すこと″、それも“戻し続けること”。収穫はその“結果”であり未来への“手段”に過ぎない」
「誰でも組めるわけではない。自分がいることで相手が得をする“目線の揃う異業種の人”と組むことが大事なんだ」と。
むかし、茨城県牛久市の高松求氏のお宅に通いつづけていた頃、高松氏はそう言った。
当時(1990年頃)、高松さんは自分で借りた畑を四人の農家で使いまわしにする交換輪作を行っていた。地代は等分に負担する。高松さんはその畑でダイコンやミシマサイコ、ラッカセイなども作っていたが、稲妻を基幹作目とする高松さんの作付けの中心は麦と大豆だった。他の三人はゴボウ、サトイモ、サツマイモ、ハクサイその他の野菜。
2年位をかけて一巡りの交換輪作をする過程で、高松さんはプラウをかけ堆肥を撒き緑肥も作った。麦や大豆作りのためでもあるが、むしろそれは仲間の野菜農家のために土壌のクリーニングや土作りをしているようにも見えた。交換輪作に参加している人々の腕もあるのだろうが、野菜の出来は素晴らしかった。そして、そこに関わった多くの企業の人々もそこから学んだ。
畑を工面し、各人の作付け計画を聞いて土地を割り当て、段取りをする。それで、面積当りの売上げは他の人の方が大きい。高松さんが他の人を呼び込むことで始まった交換輪作だが、参加した野菜農家の人々は「高松に悪いようだナ」と笑って話していた。
交換輪作の意義を語り、新しい技術を薦め、相手の実利で人を引っ張っていく。それだけではない。機械や種苗メーカーに働きかけて自ら地域の研究会を開く。自らの要求というより共に歩もうとする者のために新たな機械投資をする。さらに、農業や農家であることの可能性を語りながら、仲間の農家たちを励ますことへの協力を、僕や農文協の編集者たちに求め、また、それらの人々への気遣いをした。それは奥様への負担を増したはずだった。でも、そのための時間も作業も惜しまない。目先の金勘定をしたら高松さんは“損”をしているように見えた。
しかし、高松さんはこう言った。
「人は〝収穫〟に目を奪われがちだけど、農業の本質は〝戻すこと″、それも“戻し続けること”。収穫はその“結果”であり未来への“手段”に過ぎない」
「誰でも組めるわけではない。自分がいることで相手が得をする“目線の揃う異業種の人”と組むことが大事なんだ」と。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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