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特集

-売り手と買い手の「信頼」構築に向けて(1)- 農産物流通における「契約」を考えよう

【未来のための工程管理】

編集部 詳細な経営計画を立てることが、圃場ごとの土壌管理や、作業体系におけるコストダウンといったことにもつながる。

夏井 そうです。私はリハーサル農業と呼んでいますが、北海道は一般的に1年1作です。それを冬に2回夏に1回することで、年に3回経営を学ぶことができる。ただ頭の中で計画を立てるのではなく、紙面上で綿密な計画を立て、それをシュミレーションするのです。どんなことでもそうですが、ものごとを行動に移す時にリハーサルができているかいないかで大きな違いがもたらされるものです。農業は野球の試合のように毎日1試合できるわけではありません。特に北海道のように年1作の農業では、周到な計画を練る必要がある。雪の上でもリハーサル農業はできるのです。

編集部 工程管理を行うにあたって、どういったポイントが重要なのでしようか。

夏井 工程管理の内容は、農業経営者ごとに違います。その人が前作でどういった管理の仕方をしていて、それをどのように改善しよう、あるいは確実なものにしよう考えているかによって変化していきます。例えば、私のように、雑草はタネになるまで友達で緑肥になるんだという考え方の人もいれば、雑草が一つでも芽を出したら敵だと思い拾って歩く人もいます。その人が好みのデータを作っておいて、それを基に経営計画を立て、次の作でその通りやればよい。四角四面に“工程管理”と神経質になる必要はないでしょう。これは世界中そうなのですが、これからますます経営はオリジナルなものでなければいけません。そういう意味でも、自分の形にあった工程管理を考えればよいのです。

編集部 リハーサルは、自分の経営の形の精度を高めるためにあるということですね。

夏井 そういうことです。収穫の時など、作業の競合があってはいけないですから、そのルールを冬の間に1週間単位で作っておく。雨が降ればその通りにいかないではないかと考える人もいますが、実際はそのルールから大きなズレは生じないものです。そしてそれが、適期収穫をより確実なものにしていくのです。適期収穫は、正に、消費者の信頼に直結するものです。

編集部 ご著書の中で、経営計画と複式簿記の違いについても述べておられましたね。

夏井 複式簿記は決算簿で、これを分析している研究者の方々にとっては失礼となるかもしれませんが、経営にとってはゴミ捨て場のようなものです。経営者の立場からすると、そこから再生産につなげていくことは不可能と言ってよいでしょう。決算簿には、「何をなすべきか」という戦略が欠けています。経営計画は、未来のために何をなすべきかという、逆算の論理で作っていかなければならないものなのです。

 そういう意味でも、高度成長期やバブルの時代に土作りをして、機械・建物、担い手育成といった農業経営の整備をしてきた人たちは、今の輸入農産物に対抗することのできる体質・備蓄を持っているのだと思います。ところが、その時のものが消耗品となって消えてしまった人たちは、生き残っていくことが難しいのではないでしょうか。こういう時代でも生き残るということが、消費者を裏切らないということにつながるはずです。

 消費者によい品質のものを見て食べていただくことも大事です。しかし、それでも中国産に負けるようであればそれは仕方ないことだと思うのです。国産の品質のよいものがダメであれば、中国産でも結構だと思います。農業者は、そのくらいの気持ちでやらなければいけない。農業者としてもそれだけのものを消費者に届ける気構え、それも消費者への信頼につながることだと思います。

編集部 有り難うございました。


■夏井岩男さん
北海道名寄市
昭和14年北海道生まれ。中学卒業後、開拓3代目として農業を継ぐ。昭和44年、名寄市智恵文の離農跡地に移り住み、野菜作を本格化。現在、栽培面積約40ha。主要品目はアスパラガス、ニンジン、キャベツ、ハクサイ、カボチャ、スイートコーン、小麦など。昭和58年、日本農業賞を受賞。

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