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特集

-売り手と買い手の「信頼」構築に向けて(1)- 農産物流通における「契約」を考えよう

インタビュー(2) 価格と数量だけではない「契約」のあり方

株式会社足立松源 代表取締役 鹿間茂さん
(聞き手 昆吉則)


【契約のメリットとデメリット】

昆 農産物の売買において、御社では生産者の方々と契約書を交わされておられるケースがあるかと思いますが、「契約と信頼の構築」という面からどのようなことをお感じになられているかお聞かせ下さい。

鹿間 当社の場合、契約書を取り交わすケースはあります。しかし、それはかなりの柔軟性を待ったものになっていると言ってよいでしょう。例えば、10haのうちの3ha分については販売契約を結ぶといった形もありますし、その中の半分で価格契約を結ぶといった場合もあります。

 特に末端の買い手側は、契約内容に対して強く圧力をかけてきます。今年のように猛暑でネギがなくなった、桃がなくなったといった場合、価格は瞬間的にであれ暴騰します。その時、生産者と買い手の間で数量と単価をどう守るか。それが、我々中間流通業の役割でもあるのです。ですので、ある意味生産者の方々との「契約」は、私たちの仕事では必要なことであると言えるでしょう。もちろん、その契約で全てが決定されるものではなく、あくまでも信頼関係を深めていくためのものです。この生産者のものであれば顔も分かっていますし、安心ですよという、買い手への信頼が基本となるわけです。

 ところが、激しく相場で動く量販店対応のものでは、長野県のJA○○のものといった大枠は提示できますが、その先は見えていません。これを生産者の方々の間では、デメリットと捉える傾向が出てきましたが、ある意味、相場で動けるということがメリットとなる場合もあります。契約をすることには、メリット、デメリットが常にあると言ってよいでしょう。


【単なる「価格競争」とならないために】

昆 生産者側にとって価格競争が激しくなり、お客さんの要求が厳しくなるのは、やむを得ないことでもあるかと思います。しかし、最終の買い手企業にとって価格のみが答えとなるのでしょうか。そこに答えを求めても解決しないものがあるのではないでしょうか。生産者側の自己改革の努力を前提にして、買い手に対する次の提案をしていかないといけないのではないかと思うのです。

鹿間 その通りだと思います。確かに現在、農産物の消費は低迷しています。量販店では店内に惣菜を並べたり力ット野菜を並べたりしてそれをカバーしようとしている。外食でも、牛丼が280円、ハンバーガーが65円という競争をしています。そのため、より安いものを求める傾向は強くあります。海外の圧倒的に安いものに対する要望は高い。今、国内では120円するムキタマネギが、中国から85円程度で入ってきている。そういったものに食品加工業が群がっていく。それは分からないことではないのです。彼らも今の経営を守らなければならないから、そういったものを買うのです。

 しかし実は、私たちは農産物が安くなると困るのです。どうして困るのかと言うと、生産者の方々の生産意欲がなくなってしまうからです。そうすると、農業の空洞化が進み、このままいったら、作る人もいなくなりそれを消費する人もいなくなってしまう。そういう構造になりはしないかと心配しているのです。そういう意味においても、産地契約とは、価格や品質といった経済的側面もありますが、それと共にできるだけ信頼関係を深め、長いお付き合いをするためのものであるのです。

 私たちが何で野菜を買っていくのかと考えた時、栽培の方法や栄養価、地域を限定したところの「風景」、といったもので戦っていく以外ないだろうと考えています。そういう価値志向があれば、価格競争の激しい量販の世界であっても、1割2割高く買っていただくということもあります。技術を持った生産者の方々は、例えば減・減などの特別栽培の分野で生産をしたからといって、生産量が落ちたりコストが上がったりはしないものです。その分だけ多く買うことによって、彼らと共に生産消費の拡大ができるのではないかと思っているのです。そういった切り口を持っていないと、単なる価格競争の中にどんどん巻き込まれてしまう可能性があります。そうなれば、そういった技術を待った生産者の方々もこちらから逃げていくことになるのだと思うのです。私たちは常に消費者に情報を提供し続けることができるし、その情報が確かなものであるということを証明することができる。野菜の糖度やミネラル、硝酸態窒素、そういった他では表現ができない部分を表現することで、一つの切り口を見つけていく。海外にはない「密着した情報」を伝えていくことが重要であると考えています。

【買い手側の意識はどうなのか】

昆 先日、量販の優れたバイヤーさんとお話する中で、彼は「自分たちは八百屋さんではない。では自分たちは何なんだろう。八百屋さんは野菜に関する情報を持っていた。ところが自分たちは世代が下がるに従ってますます野菜についての情報を持っていない。青果担当のバイヤーが、何を担当しているのか分からなくなっている。これは従来やってきたやり方では解決できないのではないか」という問いを発していました。「信頼を構築するための契約」ということを考えた場合、農家だけでなく買い手側の意識ということも重要な要素となるはずです。現状では、理に合わぬことを平気で要求してくる横暴なバイヤーがいるのも現実です。そういった場合、はっきりと断る場面が出てくるかと思いますし、バイヤーたちに「そうではない」ということを教えることも必要となってくるのだと思います。

鹿間 そうですね。私たちも、できないことに関してはハッキリと申し上げています。ただ「できないよ」と言うのではなく、「こういう理由で、今回はできません」と。何回か断っていればやがて来なくなるかも知れませんが、それは相手がこちらのカラーに合わないのですから仕方がありません。

昆 買い手側から契約を反故にするといったこともあると思いますが…。

鹿間 はい。ただ、今までであれば、買い手が私たちに対して不履行した場合でも、生産者が直接そこに持って行って取引するということができた場合もありました。特に生協さんでは、そういったことができていた。今は、外食産業も生協さんも変わってきていて、それも難しい状況です。自分の企業を守るためには、やむを得ないということなのでしょう。しかし、作った人たちはどうなるのか。そういった問題は、今たくさん出てきています。本来であれば、買い手と中間と生産者が線で結ばれていないといけない。それが今、難しい状況になっていると言ってよいでしょう。

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