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江刺の稲

現在を守るより未来を創ろう

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第69回 2001年11月01日

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 250戸の組合員で構成するハンリム農協の総売上は10億ウォン(約1億円)。その内、輸出での売上が50%に及ぶという。輸出向けの品目はナス、シシトウを中心に、キュウリ、パプリカの4品目。輸出品目を生産しているのは250戸の内、シムさんを含めて10戸に過ぎない。10戸の農家が農協の売上の50%を稼ぎ出しているのである。各戸の経営面積は約1100坪。シムさんはナスの生産者グループの代表でもある。シムさんたち10戸の農家は、日本商社の要請を受けた農協の呼びかけに、自ら手を上げて輸出野菜の生産に取り組んだのだ。あくまで彼らの自己責任においてである。農協もまた自らの意思で新たな経営に取り組む彼らに対して全面的な協力を惜しまない。農協組織の呼びかけでありながらも、組合員に提供されるのはチャンスの平等であり、結果の平等ではない。結果は経営者の自己責任に任されているのだ。日本とは違い韓国の農村では兼業のチャンスは極めて限定的なものだという。しかもIMF体制を選ばざるを得なかった韓国農業が置かれたギリギリの環境の中で、未来を切り開く彼の国の農協の組織体質と農家意識の。“覚悟”を感じた。

 今、両国の農業団体や政府は、WTO交渉における共通の農産物輸出国に対する“共同戦線”に取り組もうとしている。それも、両国に共通する国益を守るために必要な取り組みかもしれない。しかし、我々はそれをもう一歩超えた未来を見つめる必要があると思う。

 本誌読者の多くも、韓国や中国の輸出攻勢に経営を圧迫されていることを知っている。しかし、賢明な読者ならただ壁を高くすることが日本農業を守ることにはならないことに気付いているはずだ。どんなに守ろうとしても、水が高きから低きに流れるごとくに経済は動くのである。であるなら、両国の農業経営者たちが自らを鍛えつつ、国境を越えた自由でフェアな競争と協力の関係を構築し、そこに共通の未来を創っていく努力を始めるべきだとは考えないか。両国農業経営者がお互いを“合わせ鏡”として見つめながら。

 羽田・関空間と関空・釜山間はほぼ同じ距離にあった。しかし、まだ韓国は近くて遠い国である。かつて戦争を繰り返したヨーロッパにはEUという経済圏が生まれている。本誌は、目線の揃う日韓の農業経営者や農業関係者たちが国境を越えた理念の共有を目指すことに、読者と共に取り組んでいきたい。

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