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特集

―枝豆(だだちゃ豆)の収穫体系を通して考える―“最高”より“最適”を選べ!

 これは経営者が機械や各種技術の導入選択を考える際に頭に置くべき命題である。なぜなら、世間一般で最も進んでいると言われる機械や、単に圃場作業として省力的だと評価されるものが、必ずしもそれぞれの経営にとって最適だとは言えないからである。 農業経営者の多くは自ら作業者の立場と経営者としての立場の両面に立たされている。仮に、作業者としての自らの労働が楽になったとしても、それでどれだけ経営効果が上がるのか否かを考えるのが経営者である。機械化を進めたからといって作物が早く育つわけではない。手に入れ得る労働力を無理なく最大限に使うことを考えるのもまた経営者の役割のはずだ。 雨上がりの畑でも走れる大型のクローラを履いた収穫運搬車を使うというケースが重量野菜産地などで目立つ。様々な対策を講じて、そんな機械が走っても畑を壊さないという条件があるのならまだしも、ただ要求された出荷に間に合わせるために「高能率」な機械を入れ、結果として畑の生産性を下げている人がいたとしたなら、それは誤りであろう。 北海道栗山町の勝部農場では、個人で250馬力のチャレンジャーを4台も所有し、必要に応じて直径1mもある暗渠を畑に巡らすなどの基盤整備を自前で行っている。壮大な投資である。でも、その結果として、1日に40haの麦蒔きを完了させられるという条件を勝部農場は整えているのだ。麦を30年以上も連作して、それに経営の全てをかけている勝部さんにしてみれば、限られた適期内に土壌を壊すことなく作業が行える「最適の条件」を整備することに徹しているのだ。その投資金額の大小だけを見る人には勝部農場の投資や技術選択が信じられないであろう。「最高」より「最適」。それも、「最適」とは貴方自身にとっての「最適」なのであり、その答えは経営者自身が出すものであり、貴方自身にしか出せないものなのである。 この特集では、鶴岡地区のだだちゃ豆の収穫機械化を例として取り上げているが、それをヒントとして機械化に限らぬ貴方自身の経営にとっての「最適とは何か?」を考えるきっかけにしていただければ幸いである。(昆 吉則)
●経営体のあり方から逆算する“最適”の作業機選択


 今回の特集では、山形県庄内地方で伝統的に生産されている茶豆、だだちゃ豆を作目として取り上げ、その地域でも優れた2人の農業経営者である鶴岡市・木村充さん、三川町・梅津博さんの経営形態と収穫体系をケーススタディとして、彼らが自らの経営のあり方や考え方からどのように自分にとって“最適”な収穫作業機を選択しているのかを検討していく。

「作業機の選択」という農業経営の中でも普遍的なテーマを考えるに当たって、だだちゃ豆の収穫機という非常に特殊なケースを選んだのにはそれなりの理由がある。
 それは、だだちゃ豆が地場の中で代々引き継がれ、地場の特性の中で栽培されてきた品種だということである。これは逆説的に聞こえるかも知れないが、特殊性があるからこそ「普遍的」なテーマを検討する上で返ってよい参考となると本誌は考える。通常、作業機は一般的な栽培方法を前提として開発される。そこに何らかの特殊性を持つ作物を適用しようとするとき、経営者は自らの栽培体系や経営形態をより強く意識することができ、そこにより適合した作業機を選択する必要に迫られる。だだちゃ豆栽培では、作業機選択の条件をより鮮明に映し出すことができると本誌は考えた。

 その中でも収穫機は、根付きで掘上げるタイプ、根付きで引抜くタイプ、刈取式のもの、立毛状態で莢のみ収穫するタイプと収穫様式そのものにバリエーションがある。庄内ではそれぞれが経営体のあり方、経営者の考え方に基づいて選択されているわけだが、その選択には、単に規模の大小や価格と機能・オプションが比例した中での作業機の選択の仕方とは明確に異なった要素が入っている。そこに注目することで最適な作業機の選択とは何かということをより明確に考えることができるのではないかと考えたのである。

 本特集ではまず、だだちゃ豆とはどんな作物なのか、慣行栽培ではどのような栽培体系で機械化がどのようになされていったのかを見た後、木村充さんと梅津博さんの例から収穫機選択における“最適”とは何か考えていく。


◎だだちゃ豆の特性


 だだちゃ豆は未成熟大豆、つまり枝豆として食される。大豆は完熟時の粒の色で分けて呼ばれることがあり、黄、黄白、青(緑)、茶、黒と分けられている。一般的な枝豆は青豆であり、黒豆では丹波の黒大豆が消費者にもよく知られている。だだちゃ豆は山形県庄内地方に伝わる在来種の茶豆である。今はテレビで宣伝されるなど、その味の良さで全国に知られ消費されているが、元々は地産地消の典型的な作物であった。

 庄内地方は米どころとしても全国に知られるが、地質的には最上川水系と月山赤川水系とに分類され、最上川水系は比較的粘土質で米作に適し、月山赤川水系は砂壌土でだだちゃ豆の生産に適している。だだちゃ豆の中でも最も美味しいとされる白山だだちゃ豆の産地白山地方も月山赤川水系に属している。

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