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新・農業経営者ルポ

危機を救ってくれたのは家族とお客様だけだった

農協は組織の清算を要求し、担保設定されていた鈴木の家屋などを競売にかけると言ってきた。鈴木の親族や近隣の人々を含めて、落札予定者まで裏で話がついていた。その話を聞いて、鈴木は人生観が変わってしまうほどのショックを受けた。首をくくる者がいれば、その縄をなう人間もいるのが世の中なのだと、つくづく思い知らされた。寝ても覚めても考えることは借金のことばかり。鈴木は当時を振りながら、今、困難の中にいる農業経営者に向けて伝えたいと言う。

「行き詰まった農家は、きっと農協の生命共済のことが頭にあると思う。自分もそうでした。農協とのかかわりが深ければ、5000~6000万円くらいは共済がかかっているはず。自分もそれを考えながら、高速道路のガードレールに飛び込む夢を見ました。でも、その人なりの解決策は必ずあるんです。死を選ぶなんて、絶対すべきではありません。すべてが後ろ向きにしか物を考えられない時に、情緒的に振舞うことほどの不幸はありませんから。だから第一に、一人で悩まず、まず妻に、そして家族に現状を包み隠さず話すことが大事だと思います」

農協という地縁にかかわる組織との争いごとでは、家族の理解や支援なしに状況を乗り越えるのは難しい。農協との関係が悪くなって以来、農協にはコメを出荷していなかったので、子供までがそれを理由にいじめにあっていたという。家族が結束することが、まず何よりも重要なのだ。

鈴木はこう続ける。

「第二に、信頼の置ける弁護士に相談することです。自分はその先生の言葉で勇気付けられました。債務不存在確認の裁判を起こし、その結果、自分の主張が認められ、裁判所が和解勧告を出したんです。農協が抗弁なしにその条件を呑んだことで競売にもならず、その後の経営を続けられる条件ができました」

農協を訴えること、そして裁判所に出向くことにすら、当時の鈴木は怯えていた。そんな時、弁護士にこう諭された。

「俺はお前の代わりに法律を盾にして喧嘩するのだよ」

相手の法的な非は何か。それを証明できてこそ主張もできる。それをわかりやすい言葉で話してくれた。人間の社会にとって法とは何であるのか、そしてそれに基づく行為とはどういうことなのか、その説明を聞き、理解する中で、鈴木は改めて自信を取り戻していった。弁護士は父の時代からの付き合いのある人で、農協の顧問弁護士もやっていたことがあり、その実態や内情についてもよく知っている人だった。

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