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しかし、読者諸氏が自らの周りを見回したとき、一人ひとりの農家を含めて農業界が「我は潔白」などと言うほど綺麗な存在であると言えるだろうか。農業界もまたその信用恐慌を引き起こす責任の一端を背負っていると僕は考える。これまでの農業界や農民もまた、被害者や弱者の顔をしながら、顧客や自らを欺いてきたのである。
我々は制度や法律の不備や悪徳業者の存在に、消費者の信用不安の原因を探すだけでは足りないのだ。農業界を含めたあらゆる経営あるいは職業としての“倫理の破綻”にそれは由来していると言うべきなのである。
今、進行している事件とは、「有機表示」や「産地表示」の“義務化”が、逆に現在の“表示の嘘”を横行させ、この信用恐慌を生じさせかねぬ状況を作っている。“嘘”の横行を規制するための制度や法律が新たな“嘘の横行”の原因を作っているのである。産地表示が義務付けられた後にこそ野菜のリパックが増えていることを読者は知っているはずだ。規制があるからヤミは美味しく、規制があるからヤミ屋も横行するのである。規制の強化を図ることや、求められるルールや規制に従うという従順さだけでことは解決しないのである。全ての企業や業界が自らの経営の永続性のためにこそ、その“経営倫理”を問うべき時代なのである。
そして、すでにスーパーが米卸に求めて作って来た特売の安値米の横行は、苦し紛れの卸が調製した低品質米の横行によって、結局スーパーの米販売量の激減という結果を生じさせているのである。農家の産直が増えたからスーパーで米が売れない訳ではない。安値競争の行き着くところで店がお客様に見捨てられたのだと言うべきなのである。
土や自然を欺くことが出来ないごとく、市場社会や顧客は騙せないのである。土作りを怠って来た者が天候不良年にうろたえるごとく、顧客を裏切るものは顧客に裁かれるのだ。
同時に、これまでの分業社会の合理性を超える新しい論理が必要とされているのだ。農家は種蒔きロボットに過ぎず、トラックか倉庫に過ぎぬ流通業者、自動販売機か単なる陳列棚に過ぎないスーパー、自動キッチンに過ぎないかのような外食産業。そして、それぞれの企業・業界人は蛸壺にはまったまま、目先の「営業」は考えても「経営」を考えない。食べる人々への共同の責務を自覚しようとしない。それが、この信用恐慌の根本原因なのである。
我々は制度や法律の不備や悪徳業者の存在に、消費者の信用不安の原因を探すだけでは足りないのだ。農業界を含めたあらゆる経営あるいは職業としての“倫理の破綻”にそれは由来していると言うべきなのである。
今、進行している事件とは、「有機表示」や「産地表示」の“義務化”が、逆に現在の“表示の嘘”を横行させ、この信用恐慌を生じさせかねぬ状況を作っている。“嘘”の横行を規制するための制度や法律が新たな“嘘の横行”の原因を作っているのである。産地表示が義務付けられた後にこそ野菜のリパックが増えていることを読者は知っているはずだ。規制があるからヤミは美味しく、規制があるからヤミ屋も横行するのである。規制の強化を図ることや、求められるルールや規制に従うという従順さだけでことは解決しないのである。全ての企業や業界が自らの経営の永続性のためにこそ、その“経営倫理”を問うべき時代なのである。
そして、すでにスーパーが米卸に求めて作って来た特売の安値米の横行は、苦し紛れの卸が調製した低品質米の横行によって、結局スーパーの米販売量の激減という結果を生じさせているのである。農家の産直が増えたからスーパーで米が売れない訳ではない。安値競争の行き着くところで店がお客様に見捨てられたのだと言うべきなのである。
土や自然を欺くことが出来ないごとく、市場社会や顧客は騙せないのである。土作りを怠って来た者が天候不良年にうろたえるごとく、顧客を裏切るものは顧客に裁かれるのだ。
同時に、これまでの分業社会の合理性を超える新しい論理が必要とされているのだ。農家は種蒔きロボットに過ぎず、トラックか倉庫に過ぎぬ流通業者、自動販売機か単なる陳列棚に過ぎないスーパー、自動キッチンに過ぎないかのような外食産業。そして、それぞれの企業・業界人は蛸壺にはまったまま、目先の「営業」は考えても「経営」を考えない。食べる人々への共同の責務を自覚しようとしない。それが、この信用恐慌の根本原因なのである。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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