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女だからの経営論

目指すはファーマーズ・ベーカリー

石臼にベーカリー どんどん増える本格機材


 「吉川さんと出会っていなければ、わざわざ札幌まで習いに行かなければならなかったのかもしれない。同じ農家で彼女は栄養士、私は保健婦の資格を持ちながら農家に入ったので、お互い通じるものがあった」

 パンの講師の資格を持つ吉川さんとの出会いは、運命的なものだった。

 由美子さんがパン教室に通う一方、博章さんは、乾燥設備も整え、オーストリア製の石臼、台湾製の業務用ミキサー、インターネットで見つけて、モデルチェンジ寸前に半値で買った業務用オーブン……本格的なベーカリーの機材を着々と買い揃えていく。何でも先行投資型なのだ。

 「あら、どうしよう。こんなスゴいの買っちゃって……いつもこのパターンなんです(笑)」

 博章さんの買い物にはびっくりするのだが、投資した分は必ず回収する。本当に必要なものは即座に買うし、無駄なコストはとことん削る。そんな哲学が徹底している。

 素人でも簡単に料理できるジャガイモと違い、小麦は乾燥、製粉して、誰かが加工しなければ、人の口には入らない。味噌やラーメンの原料として使われる場合もあるが、今「ハルユタカ」に着目しているのは、圧倒的にパン屋さんである。

 博章さんによれば、春撒きの「ハルユタカ」は、秋撒き小麦に比べると収量も少なく、穂発芽の心配も高い「非常に危険な小麦」である。その代わり、パンにしたときの醗酵が強く、窯伸びし、香りがよい、と3拍子揃っているので、名だたるパン屋からも「サンプルがほしい」との声がたくさん寄せられている。

 だからといって即座に大量注文に結びつくケースは少ない。

 「大手製粉メーカーは一度に何十万トンという粉を大量に製粉するから均一化できるけど、うちのように数トン単位の原料を自分で製粉していると、毎回粉の性質が違う。大量に焼くパン屋さんには、コスト的にも合わないでしょう」(博章さん)

 一番粉は1キロ270円。それでも、小樽の郊外で自ら石窯を築いてパンを焼くスタイルが人気を呼び、北海道で静かなブームを巻き起こしている「エグ・ヴィヴ」や、函館近くの七飯町の「こなひき小屋」など人気のパン屋さんが、玉手さんから定期的に粉を仕入れるようになった。

 「わざわざうちまで来て、粉のことを聞いていくパン屋さんは、絶対成功します。直接生産者に会って材料のことを知らなければ……という意識が強い」(博章さん)

 既にこの春から、留寿都村の学校給食に、「ハルユタカパン」の導入が決まった。「ハルユタカ」の波は、着実に広がっている。

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