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【農業経営者ルポ「この人この経営」】
“いいとこ”を見せるだけが情報開示ではありません
- 琴秀園 金川秀人
- 第40回 2002年10月01日
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小規模だから徹底的な合理化を
JR姫路駅から播但線で北へ15分。兵庫県香寺町の香呂駅へたどり着く。この町で春菊とホウレンソウの水耕栽培を手がける金川秀人さんの「琴秀園」までは駅から徒歩で10分ほど。農園へ向かう途中には、家、田んぼ、家、スーパーの横にまた田んぼ……農地と宅地が混在している様子が見える。地方都市近郊でよく見かける風景だ。
かつては農村だったこの町も、姫路市のベッドタウンとして、じわじわと都市化が進んでいるらしい。
琴秀園を訪ねたのは、8月の初旬。
ハウス内には腰の高さの水耕ベッドが一面に広がり、その上に白いマットがぎっしりと敷き詰められていた。ベッドはスライド式に移動できるので、畝間がない。幅10mのハウスに1mの通路が1本あるだけだ。
「小規模やから、徹底的な合理化を図らんと」
と、金川さん。敷き詰められたマットには、本来ならば一面にグリーンの春菊が生えそろっているはずだった。が、一部は真っ白なまま。何も生えていない。室温は38℃に達していた。
「苗が高温障害で枯れてしまった。春菊は暑さに弱い。一昨年までは何ともなかったのに、去年、今年と水温が上がってしまった。25℃までなら大丈夫なんやけど、27℃が何日も続いて……」
と、苦渋の表情を浮かべる。それでも、別の水耕ベッドでは、数日後に出荷を控えた春菊が伸び出している。その向こう側では、長男の聡さん(27歳)が、発芽して間もない小さな苗を、ウレタンごとベッドに移植していた。
「土耕なら全滅。土壌消毒をして復帰するのに、少なくとも3ヶ月はかかるはず」
ベッドの下で静かに流れる水の音。高温や病害虫のダメージを受けても、すぐさま次の栽培に取り組める。水耕特有の立ち直りの早さを物語っていた。
このところ、金川さんを悩ませているのは猛暑だけではない。昨年の狂牛病騒動以来、春菊が欠かせないはずのすき焼きや鍋物の需要が、ガタ落ちしたままなのだ。さらに――
「日本ハムの偽装事件でまた肉の消費が落ちるだろうと。仲買人が勝手に値段を3分の1に下げよった。相手も足許を見て叩いてくる。スーパーの売値はいつもと変わらんのに」
と、怒りを隠さない。猛暑に風評被害、そこから派生する値崩れ……こんな「三重苦」に見舞われるのは、初めてだという。それでも隣のハウスには、春菊とは別の菜っ葉が……ホウレンソウだ。既に次の一手がうたれていた。
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金川秀人 カナガワヒデト
琴秀園
昭和19年兵庫県の農家に生まれる、昭和37年に高校を卒業後、平成2年まで電気関係の会社に勤務。昭和62年より土耕ハウスでの軟弱野菜の栽培を兼業で始め、平成3年より水耕栽培を導入。現在に至る。
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