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我が社では登録適用外使用の現実を伝えた上で、読者に“敢えて嘘を付かせるようなこと”や“違法性を承知で自らそれを申告させること”はできないと、それを断るようにしてきた。問題を認識している企業の場合はその対策方法を共に考えていただけるが、多くのバイヤーは、「それでもアンタら商売しているつもりか!」という罵倒とともに取引が止まってしまうのが常である。
そのために、本誌の農産物販売スタッフは大きな足かせを感じながら営業せざるを得ないだけでなく、会員としてご参加いただいている読者の販売チャンスを自ら狭めてきたとも言える。しかし、我々こそ本来の商売としてあるべき姿を演じているのであり、生産者だけでなく、取引先の商売の未来にとってもその認識が必要であることを確信している。
しかし、今回の無登録農薬問題が明るみに出た結果、農林水産省から22頁のような言質を得た。それは、農水省が適用外使用の問題を公式に認め、それが問題であるという認識を示すとともに、次の臨時国会で改正されるという農薬取締法においても、「登録農薬の適用外使用については…(中略)…無登録農薬の規制には含まれません」(生産資材課農薬対策室長)というものだ。
この回答を得て、我が社では農薬登録が限られた作物についての“適用外使用”の問題を積極的に指摘しつつ、その生産者の情報についても公開をしていくことにした。読者各位も使用農薬の登録状況をチェックすると共に、その情報公開をしていくべきだ。
そもそも、売上金額が3千億円に過ぎない農薬業界に1登録当たり数百万円も要する登録適用の拡大を求めること自体が現実的ではないのだ。本誌では、農薬使用に関する情報公開を可能にし、食べる者の安心をとりもどすためにこそ、“適用外使用”を問題とすることを様々な場所で、また消費業界に向けても呼び掛けてきた。
農薬の登録適用拡大に外食業界や量販店などの現代の“食の提供”に大きな役割を持つ業界が当事者として登録拡大に関与すべきであり、登録費用の負担を誰がするかという問題を含めて「国民あるいは消費者自身による農薬登録」という考え方に立つべき時代なのである、と。そして、行政にそれを求めるだけでなく、商売人たちが自らの永続性を考えた経営倫理の問題としてそれを語るべき時代であることを。
農業はもとより食べる者のためにあるのだ。また、それでこそ「消費者に軸足を移した農林水産行政」なのではあるまいか。そして、農薬もまた、(生産者のためではなく)食べる者のためにあることを、語りえる条件が生まれるのではないか。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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