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【農業経営者ルポ「この人この経営」】
責任はわれにあり豆腐に込めた再起への思い
- 千明市旺
- 第41回 2002年11月01日
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絶望から這い上がって始めた豆腐作り
しかし1991年の牛肉の輸入自由化で状況は一変。肉牛とともに乳価も下落、売り上げは作業機械などの借金で消えた。90年に宗助さんが他界したショックもあり、千明さんは何もやる気が起こらなくなった。病院に行くとうつ病と診断された。
病院に通っても良くなる気配はなかった。「こういうときはとんでもないことを考える。牛舎に火をつけて火災保険で借金を返そうとかね。最後に考えたのは、自分の命と引換えに借金をなくすことだった。自分が死んだらいくら保険金が入るかまで計算した」
だが、悲しむ家族、火に包まれて苦しむ牛のことを考えると実行には移せなかった。
1994年、とりあえず酪農は廃業した。残った借金は親戚からお金を借りて返済した。それでもやりたいことが見つからない。酒におぼれる日々が続いた。
思いあぐねていたとき、千明さんの口から意外な言葉が出た。「豆腐屋にでもなろうか」。幼い頃、地元に一軒の豆腐屋があって、小さいながらもスキー客などが訪れて繁盛していたことを思い出した。
酪農一本でやってきた千明さんにとって豆腐作りは未知の世界だ。とりあえず、豆腐を作る機械を中古で購入した先で2日間の講習を受けた。「輸入大豆を使えば儲かるよ」。言われたとおりにやろうと店を開けた。酪農をやめた翌年だ。
商品は、地元の人が好む木綿豆腐の一品だけ。できた豆腐を軽トラックに乗せて千明さんは、村内にある約800戸の家を一軒一軒回った。「豆腐屋を始めました。よろしくお願いします」。差し出した豆腐は形が崩れ、固さも日によってまちまちだった。それでも地元の人は買ってくれた。「村の人は情が深いんさね。2日間の研修で立派な豆腐ができるわけがないのに」。
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千明市旺 チギライチオ
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