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農業経営者ルポ「この人この経営」

責任はわれにあり豆腐に込めた再起への思い

 やがて800軒のほとんどが定期的に頼んでくれるようになった。お客さんがいるということが励みになった。「この人たちのために豆腐を作ろう」。これが千明さんの目標になった。豆腐作りにも熱が入り、いつしか病も癒えた。

 だが熱が入れば入るほど、千明さんの心のわだかまりが大きくなった。「儲かるからといって単に輸入大豆を使って豆腐を作るだけでプロと言えるのか」

 このときから千明さんは仕事の合間に、豆腐屋の老舗が集まっている京都などを訪ねるようになった。無理を承知で「工場を見せてくれ」と頼んだ。「ほとんどで断られたが、自信のある老舗は見せてくれた」。

 老舗と言われる豆腐屋の豆腐は原料の大豆やにがり、そして水にこだわっていた。だが味を決めるのは作り手の技術やちょっとした手加減だとわかった。

 千明さんの思いは次第に固まっていった。「自分だけの、誰も作っていない豆腐、それでいてお客さんが評価してくれる豆腐を作ろう」。そして開店して1年後、輸入大豆を全て良質の国産に変え、木綿豆腐に加えて「ざる豆腐」という新たな商品を生み出した。


地大豆を使った「ざる豆腐」のヒット


 ざる豆腐とは、通常の豆腐よりも濃い目の豆乳を作り、にがりを打って豆腐を寄せてから、水にさらさずにそのままざるに豆腐をすくいあげたものだ。水にさらさないので大豆本来のコクが味わえるのが特徴だ。

 ざる豆腐に使われる大豆は、北海道産の「大振袖」と群馬産、または栃木産の「タチナガハ」。だが、さらに味を極めるために3年ほど前から、地大豆を使うようになった。

「大白を使ったらもっとおいしくなる」――配達先のお年寄りが千明さんに話したのがきっかけになった。「大白」とは、昭和30年代まで北海道の「鶴の子」と並んで高い評価を受けながら、次第に市場から姿を消した大豆だ。今では地元の農家が自家用に細々と栽培している程度だ。

 千明さん自身、大白大豆を知らなかったが、農家から少しずつ分けてもらって使うようになった。そして、4haある自分の畑でも栽培するようになった。畑では、農薬や化学肥料を使わずに、念入りに作った堆肥だけで作るという。それで養分は足りるのかと聞くと「大丈夫だ」と言う。やはり大白が片品村の土壌や気候風土に合っているからなのだろう。

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