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農業経営者ルポ「この人この経営」

責任はわれにあり豆腐に込めた再起への思い

「牛飼いの頃は狭い人間関係の中だけで生きていたんさね。でも豆腐屋になってお客さんと直接話をするようになって、自分の作った豆腐がどう見られているかわかるようになった。セミナーでも、自分よりもぐんと収入の多い経営者に混じって意見を発表することで自信もついてきた。『外からの目』を自分自身が持てるようになったことが一番大きい」

 かつては他人、あるいは自分を責める自分しかいなかった。しかし外に出てみて自分を客観的に眺め、時には応援してくれるもう一人の自分を発見できるようになったと千明さんはいう。何か事を成そうとする時、人との関係を築いていく時、「もう一人の自分」ほど心強いパートナーはいない。

 千明さんは、もう今は経営セミナーに一切参加していないという。「結局は自分で実践することでしか何も得られない。本を読んだり話を聞くこともいいけど、自分で経験を積むこと全てが自分のものになると思えるようになった」。


自分で売ることで責任を果たす


 千明さんの店は、山の中腹の海抜800mほどのところにある。尾瀬に向かう幹線道路から少し入り込んだ道沿いにあり、周辺は一面畑が広がっている。宣伝は一切しておらず、店の前に小さな看板があるだけだ。でも土日ともなると、店の前には車がひっきりなしに止まり、狭い店内はたちまち客で溢れる。わざわざ豆腐を買いに来る人が多いという。東京や横浜のホテル、飲食店など20店舗には宅配便で送っている。

 売り上げは6000万円ほどになり、開業して8年目で20倍に増えた。

 売れ行きが良いことを聞きつけ、大手量販店が扱わせて欲しいと言ってくることもあるが、今のところは断っているという。来店か宅配、そしてこれまで通り地元での配達という形での販売を続けていくつもりだという。千明さんが直販にこだわるのは、自分がお客さんに対して説明できる商品を、自分の手で渡したいという思いからだ。

「これまで農業というものは、それだけ孤立しているかのように語られるけど食べ物なんだからね。生産、加工、流通ってぜんぶつながっているわけなんさね。だから農家は最後まで責任を持たないといけない」。『自分で作ったものを自分で売る』ことで自らの責任を果たそうとしているのだ。

 国産大豆に切り替え、豆腐の値段が倍近く上がったため、800軒近くあった地元客は半分に減った。だが、たった一丁でも注文があれば配達に出向く。「豆腐屋になった当初、地元の人たちが支えてくれた。これがなければ今の自分はない」

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