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農協に居続けると借金を返せない
好奇心旺盛、研究熱心な小久保さんは新しいことにも貪欲にチャレンジする。菊に照明を与えるのは生育を遅らせるためといわれているが、照明がもたらす温度よりも光そのものが生育には障害になると知った。だが、青色の光を遮ることで生育が早まると聞くと、ハウスの天井に青色シートをかけて実験をしてみる。21歳から連れ添っている奥さんの千代子さん(50)からは「お父さんはいつでも一番先頭を歩いてしまう。二番目を歩けばいいのにね」といわれているという。だが、そうした研究の積み重ねが、小久保さんの菊への高い評価につながっている。
ところで、葬儀用の花のよしあしはどこで判断されるのだろう。
「葬式は前日に準備することが大半なので、翌日になっても持ちがよく、咲き方がそろっていること。それから、葬儀屋は短い時間で準備しないといけないので、箱から出した花が残らず祭壇に飾れるようにロス率が少ないこと」(小久保さん)これが葬儀用の花に求められる商品力だそうだ。
また、常識破りともいえるが、小久保さんは出荷前の水揚げをしていない。「花は敏感で、水揚げをする水に雑菌などが入っていると、かえって持ちが悪くなることがわかった」(小久保さん)ひたすら勉強し、自分で確かめながら技術を磨いてきた。それが、ユーザーからの「小久保さんの花は持ちがいい」という評価につながった。
その実績は、農協から離脱したいまも小久保さんの経営を支える根幹になっている。小久保さんは4年前に農協出荷をやめた。きっかけは農協が導入した自動選花機だ。20億円以上かけて導入したものだが、多数の生産者の花を混ぜて選花するという方法になってしまった。納得できない小久保さんら一部の農家は農家ごとの選花を求めたが、受け入れられなかった。「やめたのは、私を含め借金のある農家でした。農協がどうのこうのというより、このままでは借金を返せないという危機感のほうが強かった」――12人の農家と農事組合法人「お花屋さん」を設立した。代表は小久保さんだ。
一気に売り先を失った小久保さんらは、一から各地の市場に営業をかけた。衝突を避けるため、農協と取引のない市場だけを狙ったが、それでも農協が先回りして市場に圧力をかけた。
「でもね。そのおかげで取引が始まったんです」
つまり、圧力をかける必要がある農家イコール実力のある農家ということを市場は見逃さなかったのだ。農協は墓穴を掘り、小久保さんらにとっては災い転じて福となった。
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青山浩子 アオヤマヒロコ
農業ジャーナリスト
愛知県岡崎市生まれ。京都外国語大学英米語学科卒業。日本交通公社(JTB)勤務を経て、韓国延世大学に留学。帰国後、(株)船井総合研究所などに勤務。在職中、農業関連のコンサルティングに携わる。1999年に独立、農業関連のフリージャーナリストとして活動中。著書に、『「農」が変える食ビジネス』(日本経済新聞社)、『農産物のダイレクト販売』(共著、ベネット)、『強い農業をつくる』(日本経済新聞出版社)がある。農業関連の月刊誌、新聞などに記事を連載する一方、茨城大学農学部の非常勤講師、韓国農民新聞の客員記者も務める。
http://aoyama.my.coocan.jp
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