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農業経営者ルポ「この人この経営」

生産者自らが海外の産地と肩を組む時代


 以前であれば、輸入も商社経由でやるしかなかった。小久保さんが海外との関係を模索し始めた時もそうだった。「その頃は言葉の壁が厚かったし、提携先を見つけるにも商社を入れざるを得なかった。でもいまは外国語のできる若手も育ってきている。一緒に組んでメリットがあると思える商社でなければ、あえて通す必要もなくなってきた」

 だが、彼が中国に進出する最終の目的は「現地での消費を増やすこと」にあるという。「人口が13億人いる中国では、花を買うことのできる人口が10%としても日本の国民と同じ。スケールが違う。PRの方法を考えれば、消費はもっともっと増えると思うよ」

 昨今の中国からの輸入農産物の増加に絡んで、「日本の農家が中国の農家に対してよくない感情を抱いているだけではなく、開発輸入の負の部分を味わっている中国の農家もまた日本に対してよい感情を持っていない」と小久保さんはいう。「国は違っても同じ農家。心を通わせる方法はあるはず」

 小久保さんの農場ではいま、中国吉林省から来た研修生が働いている。中国の研修生は農協など窓口を通じないことには受け入れがなかなかできない。農協と関係の薄い小久保さんのところには派遣されない。なんとか方法はないかと考え、率直な気持ちをまとめて、なんと小泉首相にメールを送った。すると、即座に対応してくれて受け入れができるようになったそうだ。「いやー、送ってみるもんだよ。周りからは『首相にメール送ったって…』といわれたけど、やってもいないのに諦めるのはよくないよね」

 これまでに50人もの海外研修生を受け入れてきた。朝昼晩の食事は千代子さんが面倒を見る。ここまで読んだ方は、小久保さん夫婦が彼らを「労働者」として見ていないことはおわかりいただけるだろう。小久保さんのなかでは、海外には技術を出すべきではないという考えはない。前途ある若者に誇り高い農家になってもらいたい、いずれは何らかの形で力をあわせられる時が来るという思いだけだ。

 こうした生産者が日本にはいる。彼らにはセーフガードも不要だし、彼らの前で「日本の農業を守ろう」などという言葉を吐けば一笑されて終わりだろう。「時の流れは大きい。声を張り上げたところで止まるもんじゃないからね」(小久保さん)

 避けられない国際化の流れから目をそむける農家の行く末は明らかだ。逆に、生き残っていく経営者には、その流れをチャンスに変えてしまう発想、周りの人間を巻き込んで一人一人の気持ちを奮いたたせるような力が求められていると見た。

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