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村井信仁・67歳からの新規就農日記

紙筒による特用作物の栽培

世界的な日本食ブームに乗り、海外で寿司の人気が高まっている。寿司が海外に出れば、当然のことながらわさびもこれに付随する。わさびの辛味はわが国独自のもので、辛い食事の多いインド人でも、これにはびっくりして馴染めないといった顔をする。しかし、寿司文化と言うべきか、世界的に認知される時代になって、輸出も増えていると言われる。
西洋わさびの紙筒移植栽培


 世界的な日本食ブームに乗り、海外で寿司の人気が高まっている。寿司が海外に出れば、当然のことながらわさびもこれに付随する。わさびの辛味はわが国独自のもので、辛い食事の多いインド人でも、これにはびっくりして馴染めないといった顔をする。しかし、寿司文化と言うべきか、世界的に認知される時代になって、輸出も増えていると言われる。

 さて、わさびと言えば、一般的には沢の清流で栽培されるものと考えられている。確かにそれは日本原産であり、日本人にしか食べられていない特異なものである。その印象が強いだけに沢わさび(本わさび)だけがわさびのように思い込まれている。

 しかし、わさびは日本種の沢わさびに限らない。明治の初期には、フィンランドが原産と言われる西洋わさび(ホースラディッシュ、山わさび)がわが国に導入され、西洋人に食されていた。ビフテキなどに添えられ、食味を引き立てることに使われていたようである。一方、日本人はわさびを洋食に使う発想がなかったが、西洋わさびが各地に野生化して広がると、食通がこれを採取し、赤身の魚には沢わさび、白身の魚には西洋わさびといったような使い分けで、独特の辛味を楽しむようになった。

 わさびは生をすり下ろして使うのが最も美味しいと言われる。しかし、生には季節性があり、時間を経過すれば鮮度が次第に薄れ、かつ品不足になりがちである。わさびの需要拡大と共に常に同じ鮮度で安定的に消費者に供給しようとすると、何らかの手当てが必要になってきた。

 そこで開発されたのが、貯蔵性のよい粉わさびであり練りわさびである。辛味を維持するために、開発には様々な苦労があったようであるが、遂にわさびの加工に成功した。周年で安定した供給が可能になり、使いやすくなって、更に需要は拡大した。

 ここで西洋わさびがクローズアップされた。なぜなら、沢わさびは生育が遅く、苗を植え付けてから使える大きさに生長するまで3年もかかる。しかも清流でなければならないなど栽培条件に制約があり、生産量に限界がある。質がよいとされても、原料生産を多くするためには高収量で栽培しやすい他のわさびに着目せざるを得ない。

 西洋わさびは普通の畑に植え付けたその年に収穫できるほど生育が旺盛である。沢わさびに比較すると辛味の質に若干劣り、生臭さが残るなどの欠点はあるものの、その力強さは大いに魅力である。

 生き残るためには長所を伸ばし、欠点をいかに補うかに集中すべきとされ、品種改良に取り組むと共に、加工技術にも新しさを加えることになった。紆余曲折の末、これに見事に成功し、西洋わさびは昔の面影を一新して、主役にのし上がってきた。

 西洋わさびは農家と契約栽培をするなどして、少しずつ面積を増やしている。宿根性の作物であるだけに、言葉を換えると長日性の作物であるとも言える。栽培適地とされる北海道は夏の気象条件に恵まれ、日本一の生産量を誇るが、寒冷地ゆえの生育期間の短さはハンディキャップである。

 一方、甜菜も長日性の作物であり、生育期間の長いヨーロッパに対して収量、品質に劣るのは止むを得ないとされた。しかし、紙筒移植栽培技術の開発によって生育期間を延長し、見事ハンディキャップを乗り越え、現在では収量、品質共にヨーロッパをはるかに凌いでいる。

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