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農業経営者ルポ「この人この経営」

“顧客満足”への思いが破る“篤農家(=自己満足)”の殻

名古屋市に隣接する愛知県豊明市。ここ10年、急激に都市化・混住化が進んだ地域だ。かろうじて、調整区域指定のために今も残っている水田地帯の中に、一角だけいくつものガラスハウスが林立する異色の空間がある。そこが横山農園だ。 横山さんは、トマトとメロンの施設園芸を30年間続けてきた。その栽培技術の高さもさることながら、最も驚かされるのが、80aの農地で生産する約2万個のメロンと約100tのトマトを、自らの直売所でほぼ全量売り切っていることだ。市場出荷はゼロである。
個人直売で約八千万円を売り上げる

 「直売所と言ったって、本当にたいしたものじゃないんですよ。以前、NHKが取材に来たとき『横山さん、本当にここで売れますか』って聞かれたくらいなんだから」と横山さんは笑う。

 実際に直売所を訪れてみると、なるほど素っ気ない“小屋”であった。しかも、幹線道路に面しているわけでもない。最近の直売ブームで数多くの “立派”な大型直売所を目にしていると、やはり「ここでそんなに売れるのか」と思ってしまう。実は、かつては市場出荷のための作業小屋だった建物をそのまま直売所にしたのだそうだ。

 それでも、多い日には120~130人ものお客さんが、この直売所に訪れる。販売額は、平日でも25万円前後、週末は40万円以上の日がざらだ。最盛期には1日60万円も売り上げてしまう。昨年の横山農園の販売額は、7600万円。そのほとんどが直売収入だ。

 直売所と言えば、多品目の品揃えを誰でも考えるが、ここでは、近所の知り合いの農家ひとりが他の野菜を持ち込んでいる以外は、妻・治美さんの実家で生産している卵や緑茶、米などを置いているだけ。あくまで主役は1kg700円のトマトだ。市場相場では、4kg箱に2000円の値がつけば御の字のご時世だが、横山農園のトマトは、この単価でも売り切れる。ちなみに夏場のメロンも1個2000円で完売状態。9割がギフト用として発送されている。

 昨年からトマト加工品の製造・販売も始めた。トマトジュース「まるごと完熟とまとちゃん」が1リットル1000円、トマトケチャップは400g瓶700円、トマトジャムは200g瓶600円で、製造は長野県の工場に委託している。“委託”と言っても、妻の治美さんが工場に行き、実際に加工作業に加わって味を確かめながら作るのだそうだ。

 「ジュース1000円は高いと思ったんですが、かあさんと従業員は、キロ700円のトマトで作っているのに500円で売ったら、クズのトマトを使っていると思われるって。ちゃんといいトマトで作っているんだから、1000円でも合わないくらいだと言われて、なるほどなあと」(横山さん)

 実際、販売初年の昨夏、トマトジュースは好調な売れ行きを見せた。

 なぜこんなに売れるのか。そこには、さまざまな仕掛けがあるのだが、まずは、横山さんが今までどんな農業を営んできたのかを説明しなければならない。

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