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特集

リスク管理と食の信頼

 本誌では今回の法改正に先立って、マイナー作物への農薬登録拡大の必要性について主張してきた。 それは経営作物がメジャーかマイナーかに関わらず、適性な農薬使用は農業経営者にとって当然の経営責任であるという大前提に立っている。「マイナー作物への登録拡大は農薬メーカーにとって採算が合わない。だからマイナー作物生産者は“適用外使用”をせざるを得ない」といった状況が続いていたのでは、“情報公開”を進めることも困難となり、急速に失いつつある“食の信頼”を取り戻すこともできない。 これは単に生産者や農薬メーカーだけの問題ではなく、消費者に食を提供する外食や量販店の問題でもある。「安心の農産物マーケティング」や「農薬は誰のため?」と題した特集を展開したのも、そのことを伝えるためであった。
【リスク管理の時代】

 そして、無登録農薬事件をきっかけに農薬取締法が改正され、3月10日より施行された。

 今回、同法に使用者に対する罰則が盛り込まれたことで、農薬使用に関する様々な議論がなされ、多くの新たな取り決めがなされている。品目ごとに見るとまだ十分とは言えないものの、適用拡大もかなり進み、経過措置を設けることで「マイナー作物生産、即、違法行為」とならないための施策も盛り込まれたものとなった。

 事件や法改正の経緯を含め農薬に関わる様々な報道が流れたことで、今まで消費業界が語り続けてきた「有機・無農薬」の話とは全く違う、より生産の現実に即した“農薬使用”の話題が消費者の耳に届いた。農薬の適正使用やマイナー作物への適用農薬の問題も公で語られるようになった。

 もう、この“情報”の質の変化を抜きに「食の信頼」を語ることはできない。

 JAS法の制定によって、法律に合致した有機農産物はあまりに稀少であることが明らかとなった。無農薬・減農薬・低農薬は「特別栽培農産物」で一括りとなる。農薬の不使用を差別化の主眼としていた今までのマーケティング手法は破綻をきたしつつあるのだ。

 本来、日々食する農産物が安全かどうかは、当然のこととして担保されていなければならない。つまりそれは「差別化」の対象としてではなく、むしろ「リスク管理」の対象として扱われるべきことがらに属するものだ。


【情報と理念の共有】

 残留農薬の発生や無登録農薬の使用が起こらないためには、どのようなリスク管理が必要か。数%の差別化商品の安心についてのみ語り、残り90数%の農産物については口を噤んでいた消費業界にとって、180度の思考転換が必要となる。

 今、農産物のトレーサビリティが盛んに語られるようになり、農薬の使用履歴書を要求する消費企業も増えている。しかし、書面を入手するだけで、十分なリスク管理が可能なのだろうか。そこに記されている具体的な農薬についての知識が消費企業にあるのか。農産物を提供している生産者と現実的な栽培について語ることのできる知識を持っているか。そのための信頼関係は構築されているのか。現状では、問題が発生したときに生産者責任の追及はできても、問題発生を最小限に食い止めるための手段とはなり得ていないのではないか。

 生産から消費まで一気通観した情報と理念の共有、お互いが垣根を越えて語り合うことができる環境、それこそがリスク管理のために最も必要とされていることだと本誌は考える。リスク管理という視点で見れば、農薬メーカー関係者と消費企業が農薬について語り合うことに何ら不思議はないではないか。

 現実的な農薬使用について、消費者の関心も高く、国もそのための社会的な整備をしようとしている今、農薬メーカー、農業経営者、消費企業が同じ卓上で公然と語り合うことのできる社会的環境が今ほど整っている時期はない。

“食の安心”を消費者に伝えていく作業は、本当の意味でこれからだ。

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