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旅の曲者

フランス語で行こう

中央アフリカに行く計画を立てていたとき、フランス語がろくにできないことに気がついた。西アフリカや中央アフリカの国々の多くは旧フランス植民地である。フランス語ができないと不便である。
中央アフリカに行く計画を立てていたとき、フランス語がろくにできないことに気がついた。西アフリカや中央アフリカの国々の多くは旧フランス植民地である。フランス語ができないと不便である。
 そこでフランス文化センターで語学のクラスをとることにした。物価の安いエジプトでは語学学校の授業料も、日本よりはるかに安い。大学時代以来、錆びつきっぱなしのフランス語を復活させるには、いいチャンスである。

 ふりわけられたクラスは、先生をふくめ、生徒の大半がエジプト人だった。中流以上の階層なのだろう、服装もきれいだった。外国人生徒はスペインの外交官の娘、ギニアの男子学生、ジブチの男子学生、それにぼくの四人だった。

 ところが、渡されたテキストにしたがって授業が始まると、なんとも妙な感じなのである。テキストの内容が、ここでフランス語を学ぼうという人たちの雰囲気に、あまりにもそぐわないのである。

 たとえば、ある日のレッスンは、南仏に引っ越すことになった一家と友だちとのやりとりだった。エジプト人の先生が、生徒の一人を指してテキストを読むようにといった。

「すてきね」指されたエジプト人女性がたどたどしいフランス語で朗読した。「好きなときにビーチに行けるわね。日光浴だって、ウインドサーフィンだってできるわね」
 朗読するエジプト人女性は頭からすっぽり灰色のベールを被り、腕にも長い黒い手袋をはめていた。敬虔なイスラム教徒の彼女にとって、女性が肌を露わに日光浴したり、ウインドサーフィンしたりするなど考えられなかった。

 そのとき、だれかが「ウインドサーフィンて何だ?」といった。ひとりのエジプト人生徒が、オレ知ってると手をあげた。背中に大きな翼をつけて飛ぶんだよ、とそいつはいった。おいおい、それはハングライダーのことだろうと反論を試みるものの、説明できるほどフランス語ができない。スペイン娘も「ノンノン」と首をふっていたが、彼女もフランス語では説明できない。結局、多数決でウインドサーフィンとは、背中に翼をつけて空を飛ぶスポーツということになってしまった。やれやれ。

 テキストには、ほかにも恋人同士が夏のバカンスに車でブルターニュに出かける話や、ワインを飲みすぎて二日酔いになった話などがあった。けれども、エジプトでは結婚するまではカップルで旅行はおろかデートもままならない。飲酒だってイスラムではご法度だ。

 このテキストは、世界中のフランス文化センターで共通に使われているらしい。たしかに日本なら、この内容でかまわないだろう。東京でアテネ・フランセにちょっとだけ通ったことがあるけれど、生徒は皆フランス本国を向いて勉強していた。フランスを旅行したい、フランス人と友だちになりたい、フランス文学を学びたい。そんな人たちばかりだった。だから、言葉をとおしてフランス文化についての理解を深めてもらいたいという、このテキストの意図には、なんら問題はない。

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