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特集

市場の新野菜―地場野菜編-“地場”のマーケティング戦略

新野菜と言うと“海外の食材”を連想しがちだが、近年、スーパーやレストランで見かけることの多くなった地方発の地場野菜も立派な新野菜だ。うど、たらの芽、みず菜、ゆりね、くわい……。今、地域の中だけで生産・消費されていた食材がその枠を越えて、全国の家庭やレストランに浸透しつつある。  
 しかし今まで、自家や地場での消費中心に生産されてきた多品目少量生産的な農産物だけに、こういったニーズに応じる体制が十分ではないのが生産・流通サイドの現状だ。戦後、食糧増産を目的として確立されてきた、大量生産・大量流通に対応する考え方とは明らかに異なる経営戦略が求められている。

 地場を見直そうという動きは確かに全国各地に広がっている。しかしそこで語られているのは、「地産地消」「身土不二」といった“運動”に近い言葉だ。そこでは、顧客の存在が意識されておらず、農業経営者の姿も見えてこない。コメに関する“運動”にも似た、何か生産サイドからの“押しつけ”のような響きすら感じられる。

 “地場”や“地場野菜”のマーケティングにおいて求められるのは、顧客ごとのニーズを把握することのできる細やかな“営業”センスだ。農業経営者自らが都市部の個客を回るということでなくとも、同様のことを可能とするアンテナとネットワークを持ち、柔軟な生産体制を確立することのできる経営者としての才覚が求められる。

 京都や加賀の伝統野菜は有名だ。単に“伝統野菜=昔からある野菜品種”と考えられがちだが、その“伝統”は、その地域の食べる人たちと調理人と生産者のコミュニケーションを通じて築き上げられてきた“食”の文化に支えられている。伝統料理の世界は「このお店」「この生産者」ということを重要視する。“地場”や“地場野菜”のマーケティングのヒントもそこにあるのではないか。


座談会“地場”であることの魅力と限界

【出席者】武内 智((株)ワタミフードサービス常務取締役、(有)ワタミファーム社長)、小野寺俊幸(北海道常呂郡常呂町、JAところ代表理事組合長)、昆 吉則(『農業経営者』編集長)
まとめ:秋山 基

昆吉則(『農業経営者』編集長) 「地産地消」という言葉が流行し、「地場産品」や「地域」を見直そうという動きが広がっています。しかし、生産者がこれらを単なる居場所作りに利用したのでは、かつての「1村1品運動」が、日本中に地ビールとワインがあふれるだけの「100村1品」になってしまったのと同様な結果しか生まないでしょう。必要とされているのは、消費への視点や時代感覚だと私は考えています。その上で「地」の魅力をいかに戦略的にマーケティングするかが問われている。まず、(株)平成フードサービス時代に居酒屋チェーン「北海道」を手掛けた武内さんに、そのあたりの経験をお話いただきたいのですが。

【食文化のない地域に地の野菜はない】

武内智(ワタミフードサービス(株)常務取締役、(有)ワタミファーム社長) 私は生まれも育ちも北海道ですが、道内の人間は意外と地元のことを知りません。私自身、北海道の素材の多さに気付いたのは東京で働くようになってからでした。

 北海道の場合、魅力はまず素材の量と価格です。東京のビジネスマンは札幌に出張しては、レストランで高いカニを食べて帰ります。しかし、仕入れのやり方次第では、東京の店でも札幌と同じぐらいの価格では出せるし、量は少ないけど、北海道でも食べられないような食材を手に入れるルートも作れた。これはいけると思いました。地域性を出すと言っても、北海道にはアイヌ料理はあっても、「北海道料理」はありません。そこでカニやバレイショに目を付けた素材型の店を考えたわけです。

昆 北海道に限らず、日本人はそれぞれの地元に産み付けられたまま育ってきたため、なかなか自分を相対化することができません。変化しない社会では、社会のルールを守っていればそれで済んだのですが、世の中が変わると、真面目さだけではもう生きていけない。小野寺さんは以前、ニュージーランドでの見聞を話してくれたことがありましたね。

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