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【農業経営者ルポ「この人この経営」】
日本という外国の大地を耕す農夫(ランドマン)
- ランドマン・コスターヒロセ・ステファン
- 第50回 2003年08月01日
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観光地として名高い北海道美瑛町。丘陵地に咲き乱れる白やピンクのジャガイモの花を眺めながら車を走らせると、赤いペンキで塗られたかわいらしい建物が見えてきた。看板には「ランドカフェ」。ドイツ料理とケーキを食べさせてくれる喫茶店だ。
料理に使うバレイショやケーキの材料などはドイツ人のステファンさん(46)が作り、奥さんの香代子さん(43)が店を切り盛りする。
一見、外国人と日本人のカップルがのどかな農場生活を楽しんでいるというイメージだ。しかし、畑で作る作物は店で使うものを含め、すべて自ら売り切り、市場や農協には出していない。合理的で、計算された農業経営をおこなっていることは、外観からはあまり想像できない。
土木技師からの転身
喫茶店はステファンさんが廃材を利用して作り上げた。その背後に広がる急な斜面には、バレイショ、イチゴ、ハーブなど、さまざまな作物が植わっている。
「今日は取材があるっていうからケーキに使うイチゴを摘んだり、他の仕事も早目に済ませておいたんです」。ステファンさんは、驚くほど流暢な日本語を話しながら現れた。
聞けば、ステファンさんはもともと農家ではなく土木技師。ドイツからの派遣でネパールやベトナムで開発事業の指導者として働いていた。
香代子さんとは13年前に結婚。互いの留学先だった南米のエクアドルで知り合った。ネパールで新婚生活を始め、ベトナムでの任期が終わる頃には子供が3人になり、定住を考えるようになった。ドイツか日本か考えた末、95年に来日した。
「農業をやろう」というステファンさんの言葉に、香代子さんは「えっ?」と思ったという。いろんな慣習のある日本の会社勤めにステファンさんが向いているとは思わなかったが、農業という選択は意外だったそうだ。香代子さんも東京出身で、農業とは無縁だった。
「生活のためにお金は必要。とはいっても、日本語の読み書きができないから会社勤めは無理。農業は嫌いじゃなかった。土を触るだけが農業ではないのだから。何かを作る、機械を修理する、車を運転するなど、トータルで考えると、農業はいい仕事だと思った」(ステファンさん)
正規のルートで新規就農者に
定住先には、ドイツと気候などが似ている北海道を選んだ。最初に来たのは中富良野町だった。いまと違って、この頃のステファンさんはまったく日本語が話せなかった。だが、それをものともしない大胆さを感じさせるエピソードがある。
日本に来てしばらく滞在していた香代子さんの実家から、中富良野に移る時のこと。香代子さんと子どもたちは飛行機で移動したが、ステファンさんは荷物があったため、一人ワゴン車で移動した。フェリーで苫小牧に着いたのは95年3月。雪が降っていた。だが、ステファンさんの車は夏タイヤだった。ツルツル滑って走れない。チェーンを買おうと店を探し、店員に手振り身振りで伝えてみたものの、結局買えずじまいだった。道内の車は大半がスタッドレスタイヤに履き替えているため、チェーンを売っている店はなかったのだ。結局、滑るように峠を越えて中富良野に到着した。この話を紹介してくれたのは、後に登場するステファンさんのパートナー、(有)石村鉄工の石村聡英社長だが、「僕なんかにはとてもできない。大したチャレンジャーだと思いました」と話してくれた。
中富良野町に来た当初は、いろんな農場で播種や収穫のアルバイトをして生活費の一部を稼いだ。やがて、中富良野の農家が小さな畑を貸してくれ、自分なりに作物を作って市場にも出した。並行して土地を探していたところ、美瑛に耕作放棄地を見つけた。これまでの農業経験を農業委員会と上川支庁に申請し、了承されて美瑛町に移ってきた。
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